翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 127

ページ: 127

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すれば。恩(おん)をしらざる者(もの)となり。恩(おん)を思ひて打(うた)ざれば。妹(いもと)が冥途(めいど)の恨(うらみ) はれず。かの恩(おん)と此(この)仇(あた)といづれかおもくいづれかかろき。とくと思案(しあん)つかま つり。恩(おん)を以(もつ)て仇(あた)にかゆるか。仇(あた)を以(もつ)て恩(おん)にむくふか。心(こゝろ)を決(けつ)し候べしと。吃謇(ことともり) つゝいひて。刀(かたな)を鞘(さや)におさむれば。なむ右衛門いひけるは。しかおぼすは理(ことはり)なり。 某(それがし)藤浪(ふぢなみ)どのを殺(ころ)せしは。全(まつた)く非義非道(ひぎひとう)にあらず。くはしき物語(ものかたり)を聞(きゝ)て たべよ。若殿(わかとの)桂(かつら)之助どの在京(さいきやう)の刻(きざみ)。藤浪(ふぢなみ)どのゝ艶色(ゑんしよく)に迷(まよ)ひ。不破(ふは)伴(ばん)左 衛門がたぐひの。佞臣等(ねいしんら)にすゝめられて。放佚無慙(ほういつむざん)の不行跡(ふぎやうせき)漸々(ぜん〳〵)に つのり。名古屋(なごや)山(さん)三郎と某(それがし)。しば〳〵諌(いさめ)をたてまつるといへども。露(つゆ)ばかり ももちひ玉はず。若(もし)室町御所(むろまちごしよ)の御耳(おんみゝ)にいれば。おん家(いへ)にもかゝはる事(こと) なれば。せんすべなく。越(ゑつ)の范蠡(はんれい)西施(せいし)を呉湖(ごこ)にはなちたる例(ためし)にならひ。 科(とか)なきを殺(ころ)すは不便(ふびん)とは思ひしかど。お家(いへ)にはかへがたしと思ひなほして。 藤浪(ふぢなみ)どのを殺(ころ)し。すでにその場(ば)にて腹(はら)きらんと。刀(かたな)に手(て)はかけたれども。執(しつ) 権(けん)不破(ふは)道犬(どうけん)が心底(しんてい)。いぶかしき処(ところ)あれば。権(しばらく)一命(いちめい)をたもち。かれが悪意(あくい)を見 あらはせしうへにて。藤浪(ふぢなみ)どのゝ縁者(えんじや)をたづね。恨(うらみ)の刃(やいば)にかゝりて相果(あひはて)んと。 妻子(さいし)を具(ぐ)して。その夜(よ)館(やかた)を立退(たちのき)けるが。杉坂(すぎさか)にて。ふと此(この)婦人(ふじん)の首(くび)縊(くゝら)んと せられしを見つけ。いづくいかなる人(ひと)かはしらざれども。せめて此(この)婦人(ふじん)をすくひ。 藤浪(ふぢなみ)どのゝ冥福(めいふく)の便(よすが)ともなしてんと。あながちに死(し)をとゞめぬ。藤浪(ふぢなみ)どのゝ 兄(あに)なるおん身(み)の妻女(さいぢよ)とは。いかでか思ひ候べき。誠(まこと)に不思議(ふしぎ)の出会(しゆつくわい)なりとて。其(その) のち丹波(たんば)の国(くに)にうつり住(すみ)六字(ろくじ)南無(なむ)右衛門と改名(かいめい)したるいはれ。百蟹(ひやくがい)の 巻物(まきもの)を奪(うばひ)たるは。長谷部雲六(はせべのうんろく)一人(いちにん)の所為(しよい)なる事(こと)。藤浪(ふぢなみ)の怨霊(おんりやう)兄弟(きやうだい)の 子どもにつき。姉(あね)楓(かへで)は蛇(へひ)に見こまれ。弟(をとゝ)栗(くり)太郎は盲目(めしい)となり。文弥(ぶんや)と 改名(かいめい)したる事(こと)。文弥(ぶんや)忠孝(ちうかう)全(まつた)くして。若君(わかぎみ)の身がはりとなりし事。楓(かへで)孝心(かうしん)