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深(ふか)く。父(ちゝ)の汚名(をめい)をすゝがんと。見せ物芝居(ものしばゐ)に身(み)を売(うり)て。金(かね)をとゝのへ。かの
巻物(まきもの)を買(かひ)とりたる事(こと)。月若(つきわか)に妻(つま)礒菜(いそな)をつけて。河内(かはち)の国(くに)某(それがし)の寺(てら)にしの
ばせおき。おのれは回国(くわいこく)の修行者(しゆきやうじや)に身(み)を扮(ふん)して。かの巻物(まきもの)をたづさへ。桂(かつら)之
助いてふの前(まへ)二方(ふたかた)のゆくへをたづねに出(いで)て。けふしも不思議(ふしぎ)にこゝにやどり。
さきほど位牌(いはい)の法名(ほふみやう)を見て。似(に)たる事(こと)と思ひしまで。こまやかに語(かた)りける
にぞ。又平 夫婦(ふうふ)お竜(りう)も。はじめて其(その)実(しづ)を知(しり)。たぐひまれなる忠臣(ちうしん)やと。転(うたゝ)
感嘆(かんたん)にたへざりけり。なむ右衛門かさねていはく。おん身等(みら)に出会(しゆつくわい)し。恨(うらみ)の
刃(やいば)にかゝりて死(し)し。冥途(めいど)にいたりて藤波(ふぢなみ)どのにいひわけせんことは。かねて
望(のぞ)む所(ところ)なれども。主君(しゆくん)御夫婦(ごふうふ)御親子(ごしんし)の先途(せんど)を見とゞけ。再(ふたゝび)世(よ)に出(いた)し
まゐらすまでは。死(しに)にくき命(いのち)なれば。しはしの間(あひた)某(それがし)が命(いのち)を。某(それがし)にあづけおき
たまはれかし。かの宿願(しゆくくわん)をはたせしうへは。首(くび)さしのべておん身等(みら)に打(うた)る
べし。常言(じやうげん)にも大丈夫(たいじやうぶ)の一言(いちげん)は。駟馬(しめ)も走(はし)らずといへり。若(もし)此(この)詞(ことは)に
露(つゆ)ばかりもいつはりあらば。立地(たちどころ)に天地神明(てんちしんめ)の御罰(ごばつ)をかうふるべし。
恩(おん)は恩 仇(あた)は仇なり。少(すこ)しの恩(おん)を以(もつ)て覚悟(かくご)の命(いのち)をたすかるべき所(しよ)
存(ぞん)なしと。詞(ことば)すゞしくいひければ。又平 返答(へんとう)の詞(ことば)はなく。つと立(たち)て刀(かたな)を
すらりと抜(ぬき)はなち。なむ右衛門がたづさへたる編笠(あみがさ)をずばと斬(きり)て。
仏壇(ぶつだん)に手向(たむけ)。いかに藤浪(ふぢなみ)汝(なんぢ)が敵(かたき)佐々良(さゝら)三八郎が首(くび)を。かくのごとくなし
たれば。速(すみやか)に恨(うらみ)をはらして仏果(ぶつくわ)を得(え)よ。南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)あみだ仏(ぶつ)ととなへ。
扨(さて)南無(なむ)右衛門にむかひ。晋(しん)の予譲(よじやう)が例(ためし)にならひ。今(いま)已(すで)に妹(いもと)が仇(あた)をむくい
たれは。もはや恨(うらみ)は少(すこ)しもなし。此うへは妻(つま)小枝(さえだ)が命(いのち)を救(すくひ)玉はりし。大恩(だいおん)を
報(ほう)ずるのみなり。その恩(おん)を報(ほう)ずべき仕方(しかた)はかくと。へだての紙門(ふすま)を押(おし)
ひらけば。一間(ひとま)のうちに声(こゑ)ありて。某(それかし)さきほどよりこゝにありて。委細(いさい)のゆゑ