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を聞(きゝ)つるぞといひつゝ。立出(たちいづ)る人(ひと)は。乃(すなはち)是(これ)別人(べつじん)にあらず。佐々木(さゝき)桂(かつら)之助 国(くに)
知(とも)なり。なむ右衛門 椽(ゑん)のはしまで退(しりぞ)きて。平伏(へいふく)すれば。桂(かつら)之助いひける
は。我(われ)佞者(ねいしや)の為(ため)にすゝめられて行(こう)を乱(みだ)し。汝等(なんちら)が諌言(かんけん)をもちひず。
今(いま)思へば藤浪(ふぢなみ)が非業(ひごう)の死(し)は。畢竟(ひつきやう)我(わが)手(て)をくだして殺(ころ)せしも同然(とうぜん)なり
我(われ)眼(まなこ)ありながら。誠(まこと)の忠臣(ちうしん)を見ることあたはず。百蟹(ひやくがい)の巻物(まきもの)を奪(うはひ)し
も。汝(なんぢ)が仕業(しわざ)と思ひしは。大なる誤(あやま)りなり。今(いま)汝(なんぢ)がものがたりをきけば。楓(かへで)
が孝行(かう〳〵)により。巻物(まきもの)をもとめ出(いた)し。文弥(ぶんや)が忠義(ちうぎ)によりて。月若(つきわか)も恙(つゝが)
なきとや。たぐひまれなる者(もの)どもが。不便(ふびん)なる身(み)の果(は)と。思へば悲歎(ひたん)にせ
まるぞかし。我(われ)不行跡(ふかうせき)によりて。父(ちゝ)の勘気(かんき)をかうふり。かく漂泊(ひやうはく)の身(み)
となりて。今(いま)後悔(こうくわい)すといへども。更(さら)にかひなし。いきながらへて恥(はぢ)をのこ
さんより。自殺(じさつ)せめと思ひしことは。たび〴〵なれども。道犬(とうけん)が謀計(はうけい)
館(やかた)の騒動(そうとう)をほのかにきけば。父(ちゝ)うへのおん身(み)のうへ気(き)づかはしく。時節(じせつ)を
まち。御勘気(ごかんき)のゆるしをうけてたちかへり。家(いへ)をおさめんと思ふから。おち
こちをしのびて。むなしく月日(つきひ)をおくりつるが。此(この)家(いへ)のあるじ又平。藤浪(ふぢなみ)
ゆゑに零落(れいらく)せしを憐(あわれ)み。深(ふか)くいたはりてかくまひおきぬ。なごや山(さん)三
郎 不破(ふは)伴(ばん)左衛門がために父(ちゝ)を打(うた)れたる事(こと)も。かれが僕(しもべ)猿(さる)二郎と
いふ者(もの)にあひてくはしくきゝぬといひければ。なむ右衛門 頭(かしら)をさげ。おん
気(き)づかひあそばされな。某(それがし)命(いのち)あらんかぎりは道犬(とうけん)が悪意(あくい)を糺(たゞ)し。
再(ふたゝび)世(よ)にいだしまゐらすべしと申すにぞ。桂(かつら)之助すゑたのもしく
ぞ思ひける。かゝる折(おり)しも空中(くうちう)より。一羽(いちは)の雁(がん)片田(かたた)に落(おつ)る雁(かり)ならで
椽(えん)さきに撲地(はたと)おち。なむ右衛門か膝(ひざ)に上(のほ)り。再(ふたゝび)飛(とば)んと羽(は)たゝきすれ
ども。飛(とぶ)ことあたはず。よく〳〵見れば。足(あし)に財布(さいふ)をゆひつけたるが。足(あし)かし