翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 136

ページ: 136

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てさし上(あぐ)れば。帰参(きさん)のかなふは必定(ひつじやう)なれども。本金(ほんきん)に利金(りきん)をくはへて。かれ これ百両(ひやくりやう)ばかりの金(かね)なれば。なか〳〵とゝのひがたく。今(いま)先非(せんぴ)を悔(くゆ)ると いへどもかひなしといひて。そら泣(なき)して見せければ。妹(いもと)これを実(まこと)とし。 しからば妾(わらは)が身(み)を売(うり)て金(かね)をとゝのへ。その巻物(まきもの)をうけもどして。帰参(きさん) を願(ねかひ)玉へといふにぞ。某(それがし)心(こゝろ)に計(はかりこと)なりしと歓(よろこ)び。うまくいつはりて情(なさけ)なくも。 妹(いもと)を当所(たうしよ)の伏柴(ふししば)の里(さと)にゐてゆき。百両(ひやくりやう)に身(み)を売(うり)て。今日(けふ)しもその 身(み)の代(しろ)をうけとり。天(てん)へものぼるこゝちして。かへる路(みち)の傍(かたはら)に。一羽(いちは)の雁(がん)首(かしら) をなげて落居(おちゐ)たり。飛(とぶ)けはひはなく見ゆれども。抜足(ぬきあし)しつゝ拾取(ひろひとり)て 見るに。箭(や)の疵黐(きづもち)のあともなし。扨(さて)はこしぢにかへる雁金(かりがね)の。行倒(ゆきだふれ)かと 推量(すいりやう)し。何(なに)にまれ福(さいはひ)のいたり時(どき)。晩(ばん)の寝洒(ねざけ)の肴(さかな)とし。ひさ〴〵飢(うへ)たる 痩腹(やせばら)を肥(こや)さんものと。心(こゝろ)のうちに歓(よろこ)び。はや栄耀(ゑひよう)心(こゝろ)いでゝ。提(さげ)てゆくも わづらはしと。金財布(かねさいふ)の紐(ひも)のあまりを。雁(がん)の足(あし)にゆひつけ。肩(かた)の尖(とがり)にふりかた げて。懐手(ふところで)して帰(かへ)りしが。何(なに)とかしけん。かの雁(がん)途中(とちう)にて蘇生(よみがへり)。くゝりつけたる 財布(さいふ)とゝもに。虚空(こくう)を斥(さ)して飛去(とびさり)けるあひだ。翼(つばさ)なき身(み)を悲(かな)しみて。 あとをしたひて此(この)処(ところ)まで追来(おひきた)りしが。落(おつ)べき所(ところ)もあるべきに此(ここ)におちて 君(きみ)を始(はじ)め奉り。おの〳〵方(がた)に出会(しゆつくわい)し。某(それがし)が旧悪(きうあく)のあらはるゝは。正(まさしく)是(これ)兄(あに)の為(ため)に 身(み)を売(うる)ほどの。実(まこと)ある妹(いもと)の身(み)の代(しろ)をむさぼりし。某(それかし)が非道(ひだう)をにくみ。 天罰(てんばつ)を与(あた)へ玉ふに疑(うたがい)なし。今(いま)にいたりてやう〳〵と思ひあたり候とて。財布(さいふ) をとりあげ。此(この)百両(ひやくりやう)の金(かね)は先年(せんねん)奪(うばひ)し二十 両(りやう)に利(り)をくはへて。又平とのに かへすあひだ。合力(かうりよく)うけし三八郎どのへ此侭(このまゝ)返(かへ)し玉ひて。御息女(ごそくじよ)楓(かへで)どのゝ 身(み)をあがなひ返(かへ)し玉はれかし。さもあらば我身(わがみ)の罪(つみ)の一分(いちぶん)を減(げん)じ。いさゝか 来世(らいせ)をたすかる便(よすが)とも相(あい)なるべし。いはれを聞(きか)ねばよそことにおもひ