翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 149

ページ: 149

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うけがふべき様(やう)もなく帰(かへ)しつるが。又 今日(けふ)も来(きた)りてそちにあひたき望(のぞみ) なれども。仕官(しかん)さする心(こゝろ)なければ。とかく人(ひと)にあはさぬにしくべからずと。 かねて思ひて。他行(たぎやう)といつはりかへさんとするに。しからば帰宅(きたく)を待(また)んとて あのごとく寒気(かんき)に苦(くる)しむたはけ者(もの)。此方(このほう)の心(こゝろ)も察(さつ)せず長居(ながゐ)するうつけ 人(びと)。いよ〳〵そちをあはすべきにあらず。かの若者(わかもの)に命(めい)じて追帰(おひかへ)すにしかじ といひて。若者(わかもの)をちかづけ。俄(にはか)に詞(ことば)をかへていひけるは。汝(なんぢ)さきほど奴僕(ぬぼく)とも おもへといひつる詞(ことば)によりて。申しつくる事(こと)あり。かの雪中(せつちう)の侍(さふらひ)を汝(なんぢ)が弁(べん) 舌(ぜつ)を以(もつ)ておひかへせ。いかにいふとも嘉門(かもん)は他出(たしゆつ)せしといひて。是非(ぜひ)とも かへせといひつくれば。若者(わかもの)うけ玉はり。某(それがし)御奉公(ごほうこう)の手柄(てがら)はじめに。おん 手(て)にあまる馬鹿者(ばかもの)を。おひかへして見せ申さんといひて。外(と)のかたに立(たち)いで。 やよ〳〵旅人(たひゝと)おん身(み)いつまで待(また)るゝとも。あるじ嘉門(かもん)の帰宅(きたく)のほど。何(いづれ)の時(とき)と はかられねば。若(もし)日(ひ)もくれなば難儀(なんぎ)のうへの難義(なんぎ)ならん。とくかへられよ。 いざ〳〵といひつゝ手(て)をとりて。ひきたてんとせしが。顔(かほ)を見て仰天(ぎやうてん)し。貴君(きくん)は 由理(ゆり)之助 勝基公(かつもとこう)にはあらずや。此(この)おん姿(すがた)は何(なに)ゆゑぞと打驚(うちおどろき)つゝ。恭(うや〳〵しく)礼(れい)を 行(おこな)ひ。官領職(くわんれいしよく)のおん身(み)を以(もつ)て。一人(いちにん)の従者(ずさ)をも召具(めしぐ)せられず。かろ〴〵しき 御容体(ごようだい)。いぶかしさよと相(あい)のぶる。勝基(かつもと)はこの人(ひと)を。桂(かつら)之助 国知(くにとも)とは見つれ ども。一言(いちごん)の荅(こたへ)なく。唯(たゞ)拳(こぶし)を握(にぎ)り歯(は)をかみしめて。寒気(かんき)にたへざる様(やう) 子(す)なり。桂(かつら)之助こゝろづき。某(それがし)おん館(やかた)《割書:義政公を|さしていふ》の御気色(ごきしよく)を損(そん)じ。浜名入(はまなにう) 道殿(だうどの)の御内意(ごないい)によりて。父(ちゝ)の勘気(かんき)をうけし身(み)なれば。おん詞(ことば)をたま はらぬも理(ことはり)なり。かゝる大雪(おほゆき)をいとひ玉はず。自(みづから)此 家(いへ)にいたり玉ふを察(さつ)し 思ふに。嘉門(かもん)を軍師(ぐんし)に召抱(ましかゝへ)玉はん結構(けつこう)と存(ぞん)ずるなり。某(それがし)今日(けふ)しも此 山(さん) 中(ちう)にいたり。心(こゝろ)を尽(つく)して嘉門(かもん)に近(ちか)づき候も。別意(べつい)にあらず。曽(かつ)ておん館(やかた)