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し短冊(たんざく)なり。その短冊(たんざく)の箱(はこ)を以(もつ)て打擲(ちやうちやく)仕(つかま)りしは。すなはち祖父君(おほぢぎみ)の
おん拳(こぶし)をくだされ。君(きみ)がこれまでの御不行跡(ごふぎやうせき)を戒(いましめ)玉ふ同然(とうぜん)也。しかる
に君(きみ)おん怒(いかり)のけはひも見え玉はず。妾(わらは)が打擲(ちやうちやく)をたへしのび玉ふ為体(ていたらく)。
深(ふか)く先非(せんひ)を悔(くい)玉ひ。武道(ぶどう)つれ〳〵草(ぐさ)を得(え)て。御勘気(ごかんき)おんわびの
種(たね)となし玉はん。御心底(ごしんてい)あらはれておんいとをしく。胸(むね)さくるばかり悲(かなし)き
を見せ申すまじと。涙(なみだ)をかくせし老(おい)が心を。御推量(ごすいりやう)くだされかし。子(こ)よりも
孫(まご)のかはゆきは。世(よ)の人の心ぞかし。平人(へいにん)のおん身(み)ならば。祖母(ばゝ)よ孫(まご)よと名告(なのり)あひ。
娘(むすめ)がかたみといつくしみ。片時(かたとき)も傍(かたはら)をはなすまじきに。君臣(くんしん)とへだゝれば。
いひたきことのかづなきも。心に思ふのみぞかしといひて。悲歎(ひたん)に袖(そで)をひたし
けり。良(やゝ)ありて涙(なみだ)をぬぐひ。いかに嘉門(かもん)此うへはかの秘書(ひしよ)を惜(おし)ます君(きみ)に
たてまつれといふにぞ。嘉門(かもん)こゝろえ候とて。かの書(しよ)を取出(とりいだ)して桂(かつら)之助に
与(あた)へけり。老母(ろうぼ)又 勝基(かつもと)にむかひ。御覧(ごらん)のごとく桂(かつら)之助どの。今(いま)はむかしの志(こゝろざし)を
あらため玉ふなれば。おん館(やかた)の御前(こぜん)しかるべう。とりなしひとへに願(ねがい)奉る
といへば。桂(かつら)之助は秘書(ひしよ)を勝基(かつもと)に渡(わた)し。稽首(けいしゆ)俯伏(ふふく)してともにこれを
願(ねがひ)けり勝基(かつもと)打聞(うちきゝ)玉ひかねておん館(やかた)御懇望(ごこんまう)の此 秘書(ひしよ)を奉るは
国知(くにとも)どのゝ大㓛(たいこう)なれば。御前(こぜん)をよきにとりなして。やがて帰国(きこく)をとり
持(もつ)べしとのたまへば。三人ひとしく喜(よろこ)ぶこと恨(かき)りなし。扨(さて)嘉門(かもん)勝基(かつもと)に
むかひ。先年(せんねん)彗星(けいせい)あらはれたる刻(きざみ)。星(ほし)のいろ蒼(あをき)に黄(き)をおびたるを見て。牝鷄(ひんけい)晨(あさなき)し
て婦女権(ふぢよけん)を奪(うばひ)。大乱(たいらん)の起(おこ)るべききざしと考(かんかへ)たる事(こと)を語(かたり)ければ。勝基(かつもと)掌(て)
を打(うち)てその先見(せんけん)を感(かん)じ。義政公(よしまさこう)の北(きた)の台(たい)香樹院殿(かうじゆいんどの)は。若君(わかきみ)を浜(はま)
名(な)入道(にうだう)に相托(あいたく)して世(よ)にたてんとし。今出川殿(いまでかはどの)は勝基(かつもと)を執権(しつけん)として。武将(ぶしやう)
たらんことをはかられ。天下(てんか)二ツにわかれて。已(すで)に大乱(たいらん)の起(おこる)べき時節(じせつ)なる