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して前後(ぜんご)をかこみ。つもれる雪(ゆき)を踏分(ふみわけ)つゝ。麓(ふもと)を斥(さし)ていそぎゆく。
老母(ろうぼ)は嘉門(かもん)がいさましき門出(かといで)を見おくりて。すゞろに喜(よろこ)ぶといへども。桂(かつら)
之助のみすぼらしげなる姿(すがた)を見れば胸(むね)ふさがり。喜(よろこ)び悲(かなし)み打(うち)まぜて。
しばしは詞(ことば)もなかりけるが。桂(かつら)之助にむかひ。ひそかに君(きみ)にあはせまゐらする
おん方(かた)あり。いざこなたへとて。奥深(おくふか)くはなれたる一間(ひとま)のうちにいざなひけり。
これ何人(なんびと)にあはするやしらず。のち〳〵の巻(まき)を読得(よみえ)てしらん
○雍州府志(ようじうふしに)曰(いはく)。梅津(うめづ)清景(きよがけ)の塔(とう)梅津邑(うめづむら)にあり。清景(きよかげ)は藤原(ふぢわら)惟隆(これたか)
十八 世(せい)の孫(そん)也。代々(だい〳〵)院(いん)の北面(ほくめん)たり。禅法(せんほふ)に帰(き)し。剃髪(ていはつ)して是心(ぜしん)と
号(がう)す云々。案(あんず)るに一説(いつせつ)是球(ぜきう)。いづれか是(ぜ)なるをしらず。此(この)考(かふがへ)は巻(けん)之
第(たい)四 回(くわい)の下に記(しる)すべきを。誤(あやまり)てもらしぬれば。此(こゝ)に記(しる)せり。彼処(かしこ)と
てらし見るべし
夫(それ)はさておき爰(こゝ)に又。名護屋(なこや)山(さん)三郎 元春(もとはる)は。一ツには桂(かつら)之助いてふ前(まへ)。月若(つきわか)
等(ら)三人のゆくへをたづねて。その安否(あんぴ)をとひ。二ツには父(ちゝ)の仇(あた)不破(ふは)伴(ばん)左衛
門をたづねて宿意(しゆくい)をとげばやと。心(こゝろ)は二ツ身(み)は一ツちゞに心をくだきつゝ。
僕(しもへ)鹿蔵(しかぞう)を具(ぐ)して。処々(しよ〳〵)方々(はう〴〵)を尋(たづね)ありき。しはらく旅中(りよちう)に月日(つきひ)をおくり
けるが。一夜(あるよ)旅店(りよてん)のうちに不思議(ふしぎ)の夢(ゆめ)を見たり。その夢(ゆめ)いかにとなれば。
比(ころ)しも孟蘭盆(うらぼん)の時(とき)にて。父(ちゝ)の亡霊(なきたま)をまつらばやと。香華(かうげ)灯烛(とうしよく)をもとめん
為(ため)。街(ちまた)に出(いて)けるに。民家(みんか)一等(いちとう)に霊棚(たまだな)をまうけ。庭火(にはひ)をたきて。亡霊(なきたま)を迎(むかふ)る。
念仏(ねんぶつ)の声(こゑ)念珠(ずゞ)の音(をと)街(ちまた)にみち。あまたの亡者(まうじや)ともつどひ来(き)て。おのがさま〴〵
かなたこなたの家(いへ〳〵)に入(い)る為体(ていたらく)。誠(まこと)に哀(あはれ)のありさまなり。亡者(まうじや)のすかた
さま〴〵にて。額(ひたい)に波(なみ)をたゝへたる翁(おきな)もあれば。腰(こし)に弓(ゆみ)を張(はり)たる姥(うば)もあり。
若男(わかきをとこ)の幼子(いとけなきこ)の手(て)をひくもあり。若女(わかきをなご)の乳(ち)ぶさはなれぬ嬰子(みとりこ)を。懐(ふところ)に