翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 168

ページ: 168

翻刻

一点(いつてん)の不足(ふそく)なく。笹野(さゝの)蟹蔵(がいぞう)。藻屑(もくづ)の三平。土子(つちこ)泥助(でいすけ)。犬上(いぬがみ)雁(がん)八 等(ら)四 人の者(もの)をかくまひおきて。父(ちゝ)が大望(たいまう)をとぐる時節(じせつ)を待(まち)。紀伊(きい)の国(くに)藤白(ふししろ) 山の奥(おく)に大なる居宅(ゐたく)を造(つく)り。野伏(のぶし)浪人(ろうにん)どもをあまた召抱(めかゝへ)て。すはといは ば。父(ちゝ)と共(とも)に浜名(はまな)入道(にうだう)に味方(みかた)すべき結構(けつかう)専(もつはら)なり。しかりといへとも名古(なご) 屋(や)山(さん)三郎 世(よ)にあるうちは寝覚(ねざめ)安(やす)からず。元来(ぐわんらい)かれに草履打(さうりうち)の遺恨(いこん) あればこそ。かれが親(おや)をも誤(あやま)りて打(うち)たれ。いかにもしてかれをかへり打(うち)にせば やと思ひけれども。そのゆくへ弗(ふつ)にしれされば。せんすべなく打過(うちすぎ)けるが 頃日(このごろ)京都(きやうと)に居住(きよぢう)するよし偶(ふと)聞出(きゝいだ)して。かの四人の者(もの)をしたがへて俄(にはか)に 上京(じやうきやう)し。伏見(ふしみ)の里(さと)に寓居(ぐうきよ)して。人の見 知(し)りたる一様(いちやう)の装束(しやうぞく)して五 条坂(じやうざか)に往来(わうらい)し。山三郎をつり出してかへり打(うち)にせばやとはかりけるが 前(さき)の日(ひ)犬上(いぬがみ)雁八(がんはち)かの地(ち)にて。三本傘(さんぼんがさ)の紋(もん)つけたる侍(さふらひ)に出あひ。諠誮(けんくわ)に 事(こと)よせてこゝろみつるにまさしくかれが僕(しもべ)鹿蔵(しかぞう)と見つれば。山(さん)三郎 当国(とうこく)の うちに居住(きよちう)し。果(はた)して我等(われら)が計(はかりこと)におちて我(われ〳〵)をつけねらふにうたがひ なし。ついにはつりよせてかへり打(うち)にでばやと商議(しやうぎ)して。いよ〳〵曲中(くるは)に入(いり)こみける が。彼等(かれら)元来(ぐわんらい)好色(こうしよく)の輩(ともがら)なれば。伴(ばん)左衛門は茨木(いばらき)がもとの遠山(とほやま)といふ 阿曽比(あそび)になれそめ。その余(よ)の者等(ものら)もそれ〳〵になじみを得(え)て。のちには 山(さん)三郎を打(うた)ん計(はかりこと)はわきになり。一向(ひたすら)遊興(ゆうきよう)にのみひまをついやしぬ。誠(まことに)是(これ) 愚(おろか)なるふるまひなり。扨(さて)山(さん)三郎は専(もつはら)かれらを打(うつ)べき便宜(びんぎ)をまちける に。一日(あるひ)鹿蔵(しかぞう)かの地(ち)よりあはたゞしく帰来(かへりきた)りて。葛城(かつらき)が書(ふみ)をさし出(いだ)しければ。 山(さん)三郎いそがはしくこれを読(よむ)に。今夜(こんや)伴(ばん)左衛門 等(ら)五人の者(もの)一等(いつとう)に茨木(いばらき)が もとに来(きた)るよし聞出(きゝいだ)しぬ。朝(あさ)は未明(みめい)にかへるよし聞(きゝ)ぬれば。堤(つゝみ)にかへりを待(まち) うけて討取(うちとり)玉へ。かならず此時(このとき)を過(すご)し玉ふべからずとことみじかに