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ゆき。かの方(かた)にて汝(なんぢ)を産(うみ)つるよし。かねて父(ちゝ)道犬(だうけん)の物語(ものがたり)にてきゝぬ。其(その)
のちはたえておとづれも聞(きか)ざりしが。此(この)くるはに身(み)を売(うり)しとは夢(ゆめ)にだ
もしらざりき。此侭(このまゝ)おきては父(ちゝ)の恥(はぢ)我(わが)恥(はぢ)なれば。父(ちゝ)に此(この)事(こと)を告(つげ)て金(きん)
子(す)を調(ちやう)じ。とみにあがなひ出(いだ)しつかはすべしとてかへられ。已(すで)に昨夜(さくや)
そくばくの金子(きんす)を以(もつ)て。我身(わがみ)をあがなひ玉はりぬ。伴(ばん)左衛門の申さ
るゝ所(ところ)。いち〳〵我身(わがみ)におぼえあれば。別腹(べつふく)の兄(あに)なることうたがひなし。さて
伴(ばん)左衛門 密(ひそか)に申さるゝは。このごろ名古屋(なごや)山三郎といふ者(もの)。をり〳〵汝(なんぢ)が
もとに通(かよ)ひ来(く)るよし。かれには我(われ)深(ふか)き遺恨(いこん)あれば。汝(なんぢ)手引(てびき)して打(うた)せ
くれよとのたのみなり。これを聞(きゝ)て胸(むね)ふさがり。兄(あに)のたのみをうけがへ
ば夫(をつと)を殺(ころ)す大罪(だいざい)なり。おん身(み)につきて兄(あに)を打(うた)するも又 大罪(だいざい)なり。かたき
同士(どうし)に縁(えん)つながりしは。いかなる宿世(すくせ)の因果(いんぐわ)ぞと。我身(わがみ)一つのかなしさを
御推量(ごすいりやう)くだされかし。とても生(いき)ながらへがたき身のうへと覚悟(かくご)をきはめお□
身(み)のもとへは今宵(こよひ)伴(ばん)左衛門 等(ら)を打(うち)玉へと通(つう)じおき。伴(ばん)左衛門ど□
かの四人の者(もの)と共(とも)にかへらんと申すを。用(よう)ありとて別坐敷(べつざしき)にとゞ□
おき。家内(かない)の者(もの)には伴(ばん)左衛門どの深(ふか)く酔(ゑひ)たるよしを告(つげ)て。妾(わらは)が閨房(へや)
まで駕篭(かご)をかき入(いれ)させ。妾(わらは)伴(ばん)左衛門どのゝ姿(すがた)に打扮(いでたち)て駕篭(かご)に乗(のり)
出(いで)しは。おん身の手(て)にかゝりて死(しな)ん為(ため)ぞかし。のぞみのごとくおん手(て)にかゝり
はんべるならば。伴(ばん)左衛門を打(うち)しとおぼされて。かねての恨(うらみ)をはらし玉ひ
何(なに)とぞ兄(あに)の命(いのち)をおんたすけくだされかし。これのみ今生(こんじやう)の願(ねがひ)なり。敵(かたき)の妹(いもと)
と聞(きゝ)玉はゞさぞ後悔(こうくわい)し玉はんが。せめて来世(らいせ)の夫婦(ふうふ)とおぼされて。をり〳〵一(いつ)
遍(へん)の御回向(ごゑかう)ねがひはべるぞかし。伴(ばん)左衛門どの已(すで)に妾(わらは)が身の代(しろ)をつく
のひたれば。妾(わらは)死(し)すともあるじ道順(どうじゆん)の損(そん)とならず。おん身 手(て)にかけ