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すれば。海津(うめづ)景春(かげはる)まづ貞国(さだくに)にいひけるは。先(さき)だちて子息(しそく)桂(かつら)之助 在京(ざいきやう)の
刻(きざみ)。放佚(はういつ)無慙(むざん)の不行跡(ふこうせき)。おん館(やかた)《割書:義政公(よしまさこう)|をさす》のおん聞(きゝ)に達(たつ)し。官領(くわんれい)浜名(はまな)入道(にうだう)
を以(もつ)て内命(ないめい)あり。已(すで)に勘当(かんどう)の身(み)となりしが。今(いま)にいたりてふかく先非(せんぴ)を
悔(くひ)。おん館(やかた)に対(たい)し奉(たてまつ)り。一㓛(いつこう)をたてたるにより勘当(かんどう)をゆるし。家(いへ)をゆづ
りておん身(み)は隠居(いんきよ)あるべしとの内命(ないめい)なり。桂(かつら)之助 勘当(かんどう)許免(きよめん)のうへ
は。いてふの前(まへ)月若(つきわか)をも共(とも)にゆるしてよびむかへ候べしと相(あひ)のぶれば。貞国(さだくに)
いまだ答(こたへ)もせざるに道犬(だうけん)いざり出(いで)。おそれおほ〱は候へども。いてふの前(まへ)月(つき)
若(わか)は現在(げんざい)母(はゝ)の蛛手(くもで)を呪咀(しゆそ)したる罪人(つみんど)に候へば。たとへ桂(かつら)之助はおんゆるし
あるとも。かの母子(ぼし)両人(りやうにん)をおんゆるしありては。御政道(ごせいだう)たちがたく候はん。殊(こと)
更(さら)かれら両人(りやうにん)ゆくへしれ申ず候といひければ。蛛手(くもて)の方(かた)いかにもさ
あり。かれら両人(りやうにん)妾(わらは)と花形丸(はながたまる)を呪咀(しゆそ)したる事(こと)は。官領職(くわんれいしよく)にはいまだ
しろしめさゞるならん。貞国(さだくに)どのくはしくきこえあげ候へと。かたほに笑(ゑみ)ていひけれ
ば。景春(かげはる)居(ゐ)たけだかになりて両人(りやうにん)をはたとにらみ。世俗(せぞく)の常言(じやうけん)に盗人(ぬすひと)猛々(たけ〴〵)
しといふは正(まさ)に汝等(なんぢら)が事(こと)ならん。道犬(だうけん)蜘手(くもで)に悪意(あくい)をすゝめ。花形丸(はながたまる)の代(よ)に
なさんと。両人(りやうにん)はかりて月若(つきわか)を呪咀(しゆそ)し。そのうへ奸計(かんけい)を以(もつ)ていてふの前(まへ)月(つき)
若(わか)を罪(つみ)におとし。貞国(さだくに)どのゝ命(めい)といつはり月若(つきわか)の首(くび)を打(うた)せんとし。いてふ前(まへ)
を岩倉谷(いはくらだに)に引出(ひきいだ)して首(くび)打(うた)んとせしこと。皆(みな)汝等(なんぢら)が仕業(しわざ)ならずや。桂(かつら)
之助 放埓(はうらつ)の根本(こんほん)も汝(なんち)児子(せかれ)伴(ばん)左衛門にいひつけてすゝめたるにうたがひ
なし。たゞし分説(いひわけ)ありやといへば。胆(きも)ふとき道犬(だうけん)少(すこ)しもひるまずそら笑(わらひ)し
当時(とうじ)官領職(くわんれいしよく)の軍師(くんし)と尊敬(そんけう)せられ玉ふ景春公(かげはるこう)のおん詞(ことば)ともおぼえ
はべらず。いてふの前(まへ)母子(ぼし)蛛手(くもで)の方を呪咀(しゆそ)したるには自筆(じひつ)の願書(ぐわんしよ)。たしか
なる証拠(しやうこ)あり。某等(それがしら)が奸計(かんけい)と申すには何等(なにら)の証拠(しやうこ)ありや。おそれ