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て居(をる)と聞(きゝ)。ひそかにまゐりて。此(この)身(み)を百両(ひやくりやう)に買(かい)くれよとたのみしかば。すみ
やかにうけがひしが。妖蛇(ようじや)のいはれを。聞(きく)とその侭(まゝ)破談(はだん)におよぶ。金(かね)がほしいと
思ふ心(こゝろ)一図(いちづ)に。我身(わかみ)の片輪(かたわ)に心(こゝろ)つかざりし事(こと)よと。みづからはぢ思ひつゝ。すご
〴〵かへらんとしつるに。捨(すつ)る神(かみ)あればたすくる神(かみ)もありといふ。常言(ことわざ)の
ごとく。今(いま)ひとりの年(とし)かさなる傾城屋(けいせいや)が申すには。これまで蛇(へび)つかひの女
さま〴〵ありしが。実(まこと)の因果(いんぐわ)にてさることあるはめづらしく。殊更(ことさら)生(うま)れつきもよけ
れば。糺川原(たゞすがわら)にて見せものにせば。あそびにするよりかへりて利得(りとく)おほからん。
もし見せものになる心(こゝろ)あらば。五 年(ねん)をかぎり百両(ひやくりやう)にかゝゆべしと申すにより。
見せものはおろか。たとへ生皮(いきかは)をはがれ。生胆(いききも)をとらるゝとも。百両(ひやくりやう)の金(かね)をとゝ
のへ。父上(ちゝうへ)の汚名(おめい)をさへすゝげば。露(つゆ)ばかりもいとふべからず。ことさら面(おもて)はさらす
とも。うき川竹(かはたけ)のながれをくみ。身(み)をけがすにはましならめ。諸人(しよにん)にはぢを
さらしなば。かへりて罪障(ざいしやう)の。きえうせなんよすがともならんかと。心(こゝろ)を決(けつ)し。
それにきはめてもどりしが。父上(ちゝうへ)にはいひだしかねて居(ゐ)つるに。今日(けふ)思はずも
母(はゝ)さまの。おんかへりを幸(さいは)ひとし。妾(わらは)が心底(しんてい)をうちあけ。さきほど裏口(うらぐち)より
ともなひいでゝ。かしこにゆき。母(はゝ)さまの手形(てがた)をすゑて証書(しやうしよ)を渡(わた)し。
百両(ひやくりやう)の金(かね)をうけとり。今夜(こよひ)のうちに都(みやこ)へ旅立(たひだつ)はづに約(やく)して。かへりし
折(おり)から。捕手(とりて)の騒動(そうどう)若君(わかぎみ)の御急難(ごきうなん)。母(はゝ)さまとものかげにて。唯(たゞ)あきれ
てをり候。不審(ふしん)はなさせ玉ひそとよ。文弥(ぶんや)が持(もち)しかの金(かね)は。妾(わらは)が身(み)の代(しろ)に
ちがひなく候と。泣(なく)〳〵かたるにぞ。なむ右衛門一ツの不審(ふしん)ははれたれども。
それを文弥(ぶんや)が口(くち)ずから。盗(ぬすみ)しとはなどいひしと。血刀(ちがたな)をなげすてゝ。とひかゝ
る。いそ菜(な)かはりていひけるは。若君(わかきみ)の御急難(ごきうなん)をきくとひとしく。文弥(ぶんや)を
おん身がはりと思ひつきしが。忠義(ちうぎ)に凝(こつ)たるおん身(み)なれども。さすが親(おや)