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【右丁】
至(いたる)まて何(なに)一ツ不 自由(しゆふ)なく六年 已前(いぜん)日本松前 漂流(ひやうりう)か人
も此屋敷に在(あり)しや書付 置かっ(をき)し落書(らくかき)壁(かへ)にあり〳〵とし
るし残(のこ)れり斯く時候(しこう)も冬空(ふゆそら)になり廣東(かんとう)よりは北東の
隅(すみ)にあたり二年ぶりに始(はしめ)て此国にて寒気(かんき)を覚(おぼへ)着(き)かへは漂(ひやう)
着(ちやく)せし時(とき)の儘(まゝ)故 次第(しだい)に寒(さむ)く此よし官人まて願(ねかひ)候所 早速(さつそく)
聞届(きゝとゝけ)あり着類(きるい)は何(なに)が能(よく)候と尋(たづね)られ綿(わた)入願候へば綿入の義
は承知(せうち)なりちりめんか緞子(どんす)か此外にも望(のそみ)あらば申べしと
のことゆへ左様なるけつこうの品にては是なく木綿(もめん)布子(ぬのこ)
下さるへしと申けれは其(その)趣(をもむき)聞取 翌日(よくしつ)七ツ時前すぐに
【左丁】
日本 仕立(したて)になせし新敷(あたらしき)布子(ぬの)壱人前に二ツづゝ都合(つかう)数(かず)
十八 官人(やくにん)持(もた)せ来(きたり)尚(なを)蒲団(ふとん)も明日 遣(つかはす)べしと申置候是又
次の日 多(をゝ)く綿の入し新敷(あたらしき)ふとん壱ツつゝめい〳〵へ渡(わた)し
寒気(かんき)を凌(しの)ぎ右 布子(ぬのこ)蒲団(ふとん)の数々(かず〳〵)其仕立早きことにて
此國 繁華(はんくわ)の地(ち)といふこと推量(すいりやう)せりまた折々(をり〳〵)上官(しよし)中官(かちう)
の人五六人 或(あるひ)は七八人ヅヽ旅舘(りよしゆく)へきたり通辞(つうし)をもつて何
角(か)慰(なくさ)み尋(たつね)候 節(せつ)は腰(こし)に帯(たい)せし脇指(わきさし)に似(に)たる釼(けん)の柄(つか)を下
になしこしりの方を上へ向 逆(さか)さまにさし問答(といこた)へ致候事
毎度(まいと)のこと故 不審(ふしん)におもひ帰(かへ)られ候 跡(あと)にて尋ねければ