翻刻
火(ひ)をつけけむりをのむ云々(しか〳〵)又十三年十二月の条(くだり)に云二三ヶ年 以来(いらい)
たばこといふもの南蛮(なんばん)より渡(わた)る日本の上下(じやうげ)専(もつは)らこれを翫(もてあそ)ぶ
諸病(しよびやう)を愈(いや)すといふ然(しか)れども此頃(このころ)これを吸(す)ふもの病(やまひ)を発(はつ)する
ことありといへども医書(いしよ)に此 療法(れうぢかた)なし故(ゆゑ)に薬(くすり)はあたへがたし云々(しか〳〵)と
いへり此 両条(ふたくだり)の説(せつ)によれば貝原氏(かひはらうぢ)の書(しよ)に慶長十年に種(たね)を植付(うゑつけ)
しとあるものあたれり又(また)東野山人(とうやさんじん)の著書(ちよしよ)巻(まき)の廿一(にじういち)に慶長十年 今(こん)
年(ねん)蛮人(ばんじん)の船(ふね)に煙草(たばこ)を載(の)せて来(きた)る其子(そのみ)を種(うゑ)けるゆゑに京師(けいし)の
人 争(あらそ)ひ吸(す)ひて遂(つひ)に天下(てんか)に満(みち)けり云々(しか〳〵)いへるにもあへり此説(このせつ)に拠(よれ)ば
巻たばこのみならずきさみたばこも最初(さいしよ)よりのめりと見(み)ゆ巻(まき)
たばこは元亀(げんき)天正(てんしやう)の頃(ころ)よりも専(もはら)用(もち)ひきざみたるも其(その)前後(ぜんご)遠
からず用(もち)ひたるかとおもはる近頃(ちかころ)ある人の話(ものがたり)に越後(ゑちご)出雲崎(いづもさき)天正(てんしやう)十七八
年の頃(ころ)の検地帳(けんちちやう)を見(み)つるにたばこや何某(なにがし)といへる名(な)を載(のせ)たりされば
古(ふる)き事(こと)なりといひきこれは巻(まき)たばこか刻(きざみ)たばこかしりかたけれど
なにゝまれ彼舶(かのふね)より持渡(もちわた)りし物(もの)にこそあらめ
何(いづ)れの世界(せかい)にても漸(やゝ)盛(さかり)になりし後(のち)は木石(ぼくせき)の類(たぐひ)を陥(くぼ)めて刻(きざ)めるたばこ
を盛(も)りこれに管(らう)を施(ほどこ)して吸(す)ひけふらすことゝなり後々(のち〳〵)は磁器(やきもの)金銀(きん〴〵)
銅鉄(どうてつ)等(たう)にても作(つく)れり名(な)は国々(くに〳〵)によりておのがさま〳〵なり唐土(もろこし)に
ては煙管(えんくわん)煙筒(えんとう)と名(な)つく此邦(にほん)にては昔(むかし)よりこれをきせると呼(よ)べり
此(この)ことば先輩(せんはい)の考(かんがへ)に蛮語(ばんご)なるべしといへり草其(そのくさ)も吸(すひ)やうも蛮国(ばんこく)よ
り伝(つた)へしものなればさもあるべし但(たゞ)何(なに)といへる国(くに)の語(ことば)ならんと海外(かいくわい)諸国(しよこく)の