翻刻
書(ふみ)の真名書(まながき)なればよまんとはすれども幼童(わらはべ)女子(をみなご)又男も漢文(からふみ)読(よみ)な
れぬ人にはえよみときかたきをうれへてさるめでたき書(ふみ)をたれ〳〵
にもよみやすからんやうな仮名文(かなふみ)にかきかへてよと乞(こ)ふもの多きまゝに
こたび大人(うし)に申て彼書(かのふみ)のなかなる草の来由(らいゆ)よりはじめ功能(こうのう)禁忌(きんき)な
どのわきて簡要(かんえう)なる事を抜萃(ぬきいだ)し又 正編(えんろく)を木にゑりし後にもも
とめ得られしをひろひあつめおき給へる巻(まき)のなかよりも其 要(えう)なる事
どもを択(えらみ)とりかれこれを綴合(つゞりあはせ)て此かな書(かき)の草紙(さうし)となしてかりに目
さまし草とは名つけつるなりめさまし艸はいかなるものともしらねど万(まん)
葉集(えふしふ)を始として又 俊頼朝臣(としよりあそん)の ねふりの森の下にこそめさまし艸は
うゝべかりけれとよまれし歌などによればねふりをさますものにこそあるらめ
此(この)たばこてふもの人々(ひと〳〵)つねにすいながらもそのことのもとをしらざれば誠(まこと)に
ねふりゐて物(もの)をわきまへぬに似(に)たりさるを此 説(せつ)をきかんには始(はじ)めて夢(ゆめ)のさめた
らん心地(こゝち)やすらん又(また)悶(もだえ)をとき憂(うれひ)をひらく効(しるし)あることは目(め)さまし艸(くさ)といは
んもにげなからじとて此 巻(まき)の名(な)におほせつるになん
古今形勢(むかしいまのありさま)
たばこといふもの異国(いこく)よりこゝへ伝来(つたへこ)せしより二百年(にひやくねん)にあまりて
久(ひさ)しきならはしとなりぬれば世(よ)の人 貴賤(たかきいやしき)ともに其謂(そのいはれ)をも知(し)らずよる
ひるとなくけふらすることゝなりて今(いま)はひとひもこのきみなくてはともいふべく
まことに酒(さけ)にも茶(ちや)にもまさるものになんされば手(て)と口(くち)とに離(はな)さずし
ばしもかたはらにおかねは事(こと)かくるかことしげにも飽(あけ)ばうゑしめ飢(う)ればあか