← 前のページ
ページ 159 / 282
次のページ →
翻刻
【右丁】
之階級あるを知らずして刀を取り魚鳥を切るものを料理
人と同一視しこれがせんさくをなさず杜撰にかゝげし書
ありこれによりて世人も同様に心得しものありこれらは
門外漢の知る所にあらざるゆへ深くとがめず元来庖丁人
は庖丁式、礼法、庖厨之規矩、塩梅之事を司どり板元、料理人之
泰斗となりて教授す故にむかしより料理人は板元に隷属
し板元は庖丁人之教を受けて調膳之事を司どるものなり
庖丁人之事は古より貴顕之人々これを学び又此道を掌ど
り叡覧にそなへられし事たび〳〵これあれども料理人之わ
ざを叡覧あらせられし事は我朝に於て未だこれあるを聞
ずこれを以て庖丁人と料理人との階級に大差ある事は火
【左丁】
を見るよりも明なり庖丁人は世に多くあらざるゆへ板元、
庖丁人之事を学びてこれを兼ぬ料理人は板元に学びて庖
丁人之まねをなすこれより庖丁人と料理人との階級をみ
だしたるゆへ門外漢之同一視するもむりならぬ事也甚し
きに至りては庖はくりやと読て台所之事也丁は仕丁之丁
之字にてめしつかひ之事也台所之めしつかひといふ事な
りなどゝ得たりがほにいひたるものあれどもこれは文字
になづみたる牽強附会之説にて取にたらず庖丁と云事は
しさい侍【伝ヵ】ることにて門外漢之知る所にあらず口伝
庖丁刀之事
魚鳥を切る刀を庖丁と云は誤なり庖丁刀といふべしされ