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【右丁】
上天下界之事定まりし時天照太神へ鯉をかざしのもに包
みてたてまつりしを太神大によろこび給ひたゝちにこれ
を切せ給ひきこし食され祝ひ給ひし事ありこれぞ我朝に
於て鯉を切るはじめなるべし其時切ならべ給ふかたち及
び俎、刀、筋之次第は我家之大秘口伝なるゆへ記さず今用ゆ
る俎などのかたちは神武天皇之御宇よりこのかたあらた
められしものにて仔細侍【伝ヵ】る事なり《割書:大秘| 々々》
鯉と云文字は魚へんに里とかきてこいとよむ鯉之鱗の数
すがたの大小にかゝはらず一のひれのきはより尾づゝ迄
に三十六あり三十六丁を一里と云よつて魚へんに里とか
きて鯉とよみ侍るものなり三十六は陰数なり外陰にして
【左丁】
内に陽気を包み陰陽相交り万物之首元たる象あり其性は
隠潜鋭進龍之如く時としては深淵にひそみ時としては瀧
をさかのぼり君子之徳をそなへ大海之源にすむ故に諸魚
之王とす登龍門とは鯉の事をいふなりむかし孔子之子生
れし時魯之君より鯉をおくられけれは孔子は君のたまも
のをよみして其子を鯉と名づけ字を伯魚といふ誠にめで
たき魚にして其容其味ともに美なるゆへ祝儀之時はかな
らず用ゆ庖丁をなすに要文あり切る時は一の刀を右より
あつるもの也他の川魚を庖丁なすも鯉之如く一の刀を右
よりあてそむべし《割書:大秘|》
鯉を切る時は其座の体其庭之体によつて心づかひあるべ