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【右丁】
し其座其庭之体によつて江南府鯉を切るべし又赬鯉を切
る事もありこれには釈尊之故事あり我家之秘事なり花を
立たる座敷にての心づかひは花によつてなすべし同じ桜
之花にても八重桜と一重桜とによつて切たる鯉之頭をた
つかしらに置くと其まゝなりに置くとの別あり梅之花に
も紅梅と白梅との別によつて雪朝鯉を切ると尾立鯉を切
るとの別あり松を立たる処にては松によつて祝言鯉、松の
鯉を切る菊の時は長命鯉、石畳鯉などを切るべしこれら之
事はすべて口伝なれどもいさゝかこゝに記す此余之事は
口伝を得て知るべし
新室之所にて庖丁をなす時は移徒鯉【注】を切るべし庖丁人其
【左丁】
座に幾人居るとも一人移徒【注】の鯉を切りたらばたとへ切形
かはるとも其所にて再び移徒【注】鯉を切るべからずこの時之
俎之すへ様移徒【注】之心づかひ之事は口伝あり
船中にて庖丁所望あらば板に船中鯉鯛にても切りて出す
べし口伝あり刀をかへす事はいむなり
蹴鞠之時庖丁をなすには懸の鯉を切るべし蹴鞠之事は賀
茂、飛鳥井之秘伝なるゆへ委しく記さず庖丁に付ての事は
やむなくいさゝか爰に記す蹴鞠に祝言の鞠、調伏の鞠あり
懸鯉を切るにも其心得■【有ヵ】べし懸四本の中に俎を置て庖丁
をなす時祭事ありこの祭事は賀茂、飛鳥井の口伝事なるゆ
へ此方は知らず我家之伝書に四本の懸の木は鞠の明神之
【注 「移徒」は「移徙」ヵ】