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【右丁】
ものは斯道に達せざるものと知るべし譬へは庭前に池を
掘り水を溜蛙を呼んで歌のたねとして楽む人もあり蛙の
聲はさわがしとて山を築き種々の樹木をうゑ苔むして閑
静なるこそよけれといふものもあり平かなる庭に松一本
うゑ獨立亭として面白しと楽むものもあり千差万別なり
茂叔は蓮を愛し淵明は菊を愛すそれ〳〵好に違ひあればこ
そおもしろからめ定り有て替る事なきは数寄風流もある
まじき事也我が数寄にあはぬとて悪きと云事なかれ献
立に載る処之料理の名其品多き事なり作法にかゝはら
ざる献立之分は作者の働を以て定たるもの也其品物之名
も亦然り我知らざるに人知れるあり我また知るといふと
【左丁】
も人の知らざるもある事なれば斯道に従ふものとて其名
を知らざるを恥辱となすに足らず又所によりて名之替り
たる物もあるべし物之名も所によりて替るべし難波の芦
は伊勢の浜をぎとて我知らざる名あらば則ち尋ならふべ
し作者之働を以て名付たる事は其名の縁を問人あらば詳
に答ふるなるべし古より主之好によりなしたる事もあり
又己の働にてなしたる事もあり臨機応変の調膳献立等も
ある事ゆへ決して古の調膳献立とて法となすに足らず他
人の作たる事とて濫に非難すべからず古実作法をもわき
まヘずして物しりがほに古へ臨機応変になしたる一二之
事をあげて古法古実などゝ人にほこり世をあざむくも