翻刻
ふしかいきするものには妙薬(めうやく)ほんの薬/組(くみ)の通(とをり)に調(てう)
合(かう)して憚(はゝかり)なくつかはせは。薬/方(はう)正直(しやうしき)なるまゝに。ときの
がいきはなをりけりある時の事(こと)なるに三/田(た)の百性(ひやくしやう)
風(かぜ)をひき木斎(ぼくさい)をたのみけり。ぼくさいかしこに打(うち)こへて
病人(びやうにん)の脈(みやく)をかんがへ。頭痛(つつう)するかと問(とい)けれは。中々(なか〳〵)と
びんかいたむと云いかにもそうこそ有べけれ。人を
こされ候へ薬(くすり)をさしこし侍らんとていそき我(わが)屋に
立(たち)かへり。はいとくさんを合(あわせ)つゝ銘(めい)をかく折(おり)ふしに
あたりの牢人(らうにん)来(き)かゝりて是をつく〳〵見る所(ところ)に
かなにてはいとく三と。一二三の三の字(じ)かく。牢人申
けるやうは病人もんもうなれはとて。かなにてかゝせ
たまふさへ。しんかう薄(うす)く見へけるになんぞや数の三の
字(じ)は。そこにはかゝれ申まじ。たしなみ給へとあざわらへは
木斎申けるやうは。いや心やすき病人なれは。少も
くるしからぬ也。もそといんぎんなる方(はう)へは。山といふ
さんの字(じ)を書(かき)つかはすとのあいさつなり。牢(らう)人いよ〳〵
おかしくて腹筋(はらすじ)いためば。腹(はら)をかゝへて帰(かへ)りける。さて
又つゝみ紙(かみ)に。せんじやうつねのごとくせうが一へき入てと
書(かき)つかはす。其後(そののち)人の来(き)[た]らねば。木斎(ほくさい)無(なく)_二心元(こころもと)_一て病(びやう)
人の方(かた)へ見廻(みまは)て。様子(やうす)は何(なに)と候そ。立(たて)つけ薬(くすり)を呑(の)み
給へと。さも取しづめ申/時(とき)。病(びやう)人の親仁(おやち)罷出(まかりいて)。誠(まことに)以/我等(われら)
体(てい)の。せがれがわつらひにはる〳〵との御出。忝(かたじけなく)存候さり