翻刻
ながら。御 薬(くすり)のあまりにからく候故。先さしやすめ
候と。野(の)がへりさすりて申ける。木斎(ほくさい)聞(きい)てあらふしきや
さのみにからき剤(ざい)にてなし。おほつかなしと申ける。親仁(おやぢ)
かさねて申やう。御薬こそはからく侍らずともしやう
がゝ多く入候/故(ゆへ)かと謹而(つゝしんて)申木斎きかれて。一へぎの
しやうがゝ何とて左程(さやう)にからからん。何程(なにほど)のへぎぞや見(み)
せ給へと有し時([と]き)。七寸四方のとちへぎに。しやうがを
一へんに置(おき)ならべ。此へぎに如_レ此一へぎ入て候也。さて
又せんじやうつねのごとくと御/書付(かきつけ)候へはいかにもつ
ねの鋳五徳(いことく)の。なべ屋のごとくを用(もちひ)て。かぢやの打五徳(うちごとく)て
禁(きん)じ申也。せんじ鍋(なべ)の事をば。何共御/書付(かきつけ)なく候へとも
是/程(ほど)のしやうかなれは。大かた是かよからんとかんがへ弐
升入のやくわんにて。せんじのませんと仕れど。一/口(くち)もたべ
られねば。先(まつ)指置(さしをき)て煎茶(せんじちや)に。みかんの皮(かわ)とくろまめと
さんせう四五/粒(りう)くわへつゝ。せんじてのませ候へばすきと
本腹(ほんぶく)せし故(ゆへ)に。使(つかい)はしんじ申さぬ也。先/是(これ)までの御
いで。御/大義(たいぎ)【太】千万(せんばん)祝着(しうちやく)申て候也。俄(にわか)事なりやほた餅(もち)は
ならぬ。なすび付くふて御/茶(ちや)参(まい)れとそ申ける。木斎
心に思ふ様(やう)物には吉凶(きつきやう)有/物哉(ものかな)薬(くすり)の銘(めい)にひをうた
れ。心にかゝりさふらひしが。あんにたがはず病家にて
間違(まちがい)出来(いてき)侍る也。爰(こゝ)は釘(くぎ)の打所と立とゞまりて申
やう。せいもんそおやくしぞ。一ふく三分くすりそや。なすび
づけでは絵(ゑ)がとけぬと。ことはりてこそ帰(かへ)りけり