翻刻
べし。いさ参らんとて参りしが。程なく御山のふもと
につく。あゆみをはこぶもろ人の。いしやうはこふく餅(もち)
うり共。そでやこづまに取つきて。是めさらんせと口
口に。いふやしめなはひきまはす。瀧のひゞきはたか
すへ松。まつもろともに旦那(たんな)の。ぼくさいはんじやう目
玉そくさい。延命散(ゑんめいさん)も二王門。爰ぞ本道の医師(いし)の
きざはし打あかり。御宝前にも成しかば。我身に
しやうがみたかりし故。いろめく人にわに口をあうん
と云程うちならし心しづかにきねんして下向道(けこうだう)に
もおもむけは。爰に人あまた立こぞれり。何事や
らんと木斎も。あゆみをとめて見てあれば大和哥
に同年程の男のかしら惣結(そうゆい)にしたるが。しぶかみを
ひろげ敷て。うしろには古屏風(ふるびやうぶ)に。新酒一石/価(あたい)銭金
と。代待の大文字書たるを立。太平記の評判を読(よむ)
にてぞ侍りける。其口/拍子(びやうし)。古(ふる)むぢなの/弁舌(べんぜつ)。穴(あな)のち
ゑを。あらはしたるともいつつべし。折ふし天王寺にて
上宮太子の未来記(みらいき)を楠正成(くすのきまさしげ)披見(ひけん)して。世の治乱(ちらん)を
考(かんが)へける。其巻の評判(ひやうばん)也。是を木斎つく〳〵ときゝ
正成(まさしげ)の知略(ちりやく)にて。偽(ぎ)書を作(つくり)納置(おさめほき)。諸人に信(しん)をとらし
め給ふと。云所に心を付。誠に是こそ今とても。有べ
きはかりことぞと打うなづきひとへに明王の御おし
へと。跡ふりかへり礼拝(らいはい)して。急(いそき)我屋に立かへり。或筆(あるひつ)