翻刻
をとげ忝がり申べしとのべければ。木斎きかれで。わ
れ遠路(ゑんろ)へ行ば。当地(とうち)の病人に。疎(うとく)成候へとも。きゝ
およびて。はる〳〵迎(むかい)をたまはる上は。最上川(もかみかわ)にはあら
ねども。いなにはあらじ此月計は。何(なに)かくるしかるべ
き。来に人こすにもあるまじとて。駄馬にうち
のり。目玉之助一人めしつれ。使(つかい)の者(もの)の案内(あんない)にまかせ
行ければ。程なく彼宅(かのたく)につく。居体(いてい)を見れば。お
びたゝしくて。長者殿(ちやうしやとの)とも云つべし其名を水(みつ)
沢鴨(さわかも)左衛門と云もの也。木斎へ対面(たいめん)して。はる〳〵御
来臨(らいりん)忝奉存候。扨/貴老様(きらうさま)を招(まね)き申事。別(べつ)の儀(き)
に御座なく候。わたくし持病(ぢびやう)に寸白(すんばく)御座候を数(す)
年養性(ねんやうじやう)ゆたんなくいたし候へとも治(ぢ)する事なく。めい
わく仕候。此上は偏(ひとへ)に御療治(ごりやうじ)をたのみ入奉ると申せば
木斎きかれてさても〳〵御/仕合(しやわせ)かな。それこそ
我家(わかいへ)の療治(りやうぢ)にて侍る心やすかれ。早速治(そうそくぢ)して
まいらせんとて。からしを取よせ。すりばちにてすら
せ。まづ〳〵是を。ひたものしよくしゐへ。よき時分を見
合。加減(かげん)の薬(くすり)をまいらせんとあれば。好物(かうぶつ)ならねど
おしへにまかせて。昼夜(ちうや)をかきらずつゝけて半月(はんげつ)
ほどもたへければ。けつ〳〵常(つね)よりも。つよく
寸白虫(すんはくむし)さわぎ立(たて)て。絶(たへ)入なんとする事。度々(たび〳〵)
有しが。こと〳〵くきんへさがりて。しむるによりて