翻刻
よろこぶ。勿論(もちろん)木斎は。一/廉(かど)の礼/式(しき)をうけ侍りける
然所に霊厳島(れいがんしま)に。最上牢人(もがみらうにん)/照井(てるい)太郎右衛門と云
人。金銀/沢山(たくさん)もちて。家(いへ)や敷を求(もとめ)。借(かし)屋/借蔵(かしぐら)。おほく
立(た)て諸商人にかし。又は質物を取。金銀米銭をかし
て。その利足にて妻子一族。其外大勢の家人眷
属を扶持してくらす人有。おてると云てひとり息女
をもたれけるが。みめかたち諸人にすぐれ心さか〳〵し
く。あいきやうありて。父母のてうあひはなはたし
しかれども。いかなるいんぐわにや。女根なくしてわづか
に。尿の通る小穴錐もみの跡のやうなるが。只壱つ
有ければ。いか成方へも送るべきやうなくて。年
月をかさねける程に歌(うた)の文字(もじ)数とひとしくなれば
世人異名(せじんいみやう)を付て今小町といへり。父母かなしき事に
おもはれけれどもぜひなく打過(うちすぎ)たまひぬ。いか成つてにや
とうがね屋の一子。木斎の療治(りやうぢ)にて本ぶくのよしを
きゝおよばれ茂兵衛方へ。いまた御/意(い)は得ざれども貴殿(きでん)
の御一子は木斎さの御療治にて。ほんぶく有と承(うけたまは)りお
よびたりねかわくは。木斎さへ御申つたへて。此/散人(さんじん)方へ
御引付たまはり候へと頼ゐへば。やすき程の御事とて
則(すなはち)木斎方へ。かくと申つたへければ。木斎/使(つかい)とつれて
照井殿(てるいどの)へ参らるれば。夫婦の人出向。遠路(ゑんろ)御/越(こし)忝奉
_レ存候。先(まつ)こなたへとて。上座(じやうざ)にしやうじ。さま〴〵もてなし