翻刻
【右丁】
其釜にて油をたく也粕は釜の下へくへて焚物とす油は片端樽に詰船底へ
入置也大と云鯨百天位と云尋にして三十尋也
一 右島を出帆してより四ヶ月計りの間諸所津中にて鯨を二十本取る十月中頃
西洋の内ウワフ国へ着船
一 伝蔵五右衛門重助寅右衛門四人は被助たる船頭ゟ此国の役人へ預け置此所出
帆す 此役人と云は《割書:アメリカゟ来り居るダーツタチヨーチ|なるへし》
此地周廻三十里《割書:日本|道也》程山高し人家日本の茅葺の如し人の色合も日本
人のことし神は男はザンキリ女は長く後へ束ね巻て留りは櫛にて留る
衣類は不定色々有気候は年中日本の三四月頃肌にて暑寒の変なし
此所は三十ヶ年余り已前にアメリカの人ダーツタチヨーギと云人来りて国民
の病を療し或は手習を教へ何かの導等をして人々をなつけ大に帰
服させ其大功によつて国主より国を半分わけてもらひ今に存生せり
此地は諸国交易場所にてアメリカ〇インギリス〇アランシ〇ヲランダ〇等の出張
あつて国々の奉行相詰居て其家居は自分々々国々の通りの作方なり
食物調するには地を掘て火を焚石を置て石の能焼たる時火もへ終りに
成て石の落入て低くなりたる時芋《割書:田芋なり|》を其上へ置濡れたる筵を覆ひ
【左丁】
土をきせ置其上に水を掛れはその勢に烟り立て芋を蒸るを取出し
皮を剥たゝきのりのことくなりたるを三斗程入瓢単に入て二日計腐かし
置又皿鉢ほとの瓢単《割書:是は二ツに引わりて|井皿鉢の場へ用る也》の内へ生魚を入て出し家内うち
寄て亭主一番に右食指と中指と二本すくひ喰ひ又左りの手にて魚を
一口喰切て本の器に置夫より順々にかたのことくして喰尽す也
一 ウワフ国へ着船の節船頭に連れられタツタチヨーヂ《割書:タツタは医者の名|チヨーヂは其人の名》の宅へ行て
主人日本の金弐朱二十片銀壱歩一切紙に張付たると又烟管烟草入并出家の
法衣丸薬等を出し一同へ見せけれは是は我等が国のもの也と云仕方をして見
すれは日本人と合点せし様子也此品々は去年《割書:天保十一|子年也》大坂十三人乗の船と此地へ
漂着し船破損し乗組をチヨーチの世話にて本■渡海の船便に送り遣はし
謝礼して右の品々を残し置たるとなり
万次郎話説
一 丑十一月ウワフ国出帆万次郎壱人船頭に連られアメリカ屁御宇し所より午の
方角へ乗出し三十里計走りキンシトルと云躶島に船かゝり夫より乾の方へ向出
帆す其後洋中にて年を越ゆ