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○/至(いたつ)てむつかしき九死一生(きうしいつしやう)の大病(たいひやう)人/始(はしめ)て見るにハ。脉(みやく)
体(てい)腹(はら)手(て)足(あし)爪(つめ)惣身(そうしん)の肉(にく)まで得与(とくと)念(ねん)を入(いれ)至極(しごく)叮(てい)
嚀(ねい)に容体(やうたい)を窺(うかゝ)ふべし。眉(まゆ)を嚬(ひそめ)て只(たゝ)フウ〳〵と
いひ口(くち)の内にて独云(ひとりこと)をいふて薬箱(くすりはこ)へ手(て)をかけず
顔(かほ)をしかめ小首(こくひ)をかたむけじつとして見合(みあわせ)居(ゐる)へし。其(その)
時病家ハかたすを呑(のん)で心配(しんはい)をして。下地(したぢ)の医者(いしや)の薬(くすり)
を持(もち)出(いで)是(これ)御/覧(らん)なされて下されませと差(さし)いだす。これを
見(み)て少(sすこ)し首傾(くひかたむ)け。思案(しあん)も有体(ありてい)にて。下地(したぢ)の薬(くすり)を見て
こほたず随分(ずいぶん)如才(ぢよさい)のない尤(もつとも)なる薬でござる。やはり先(まづ)
此薬を用(もちひ)て御らふじませといふべし。下地(したぢ)の薬(くすり)でやう
なひゆへ頼(たのみ)し医者(いしや)なれば。左様(さやふ)なら下地の薬用ひま
せふといはぬことハしれた事なれば。大きな場(ば)で。下地の
薬も随分(ずいぶん)無利(むり)ならぬ配剤(はいざい)なといふてばかり居(ゐ)れバ。
「下地の薬てもおもハしう御座りませず何卒(なにとぞ)あなた
様の思召(おぼしめし)にて御/調合(ちやうがふ)下されませと相願(あいねが)ふ。そふ願(ねが)ハし
てからでなけれバ。若(もし)受取(うけとつ)てしくじりにならぬ為(ため)なり。