← 前のページ
ページ 101 / 451
次のページ →
翻刻
るべかりしを乳母(ちぼ)かなしんで深(ふか)くかくして養育(やういく)したりしが。八九 歳(さい)にして僧(そう)と
なりしも壮年(さうねん)の後(のち)に至(いた)れば。僧律(そうりつ)の戒行(かいきやう)をもつゝしまず行跡(きやうせき)悪(あ)しき者(もの)な
り。爰(こゝ)に国(くに)には一揆(いつき)おこつて盗賊(とうぞく)しば〳〵起(おこ)るに乗(じやう)じ。竹州(ちくしう)の賊(ぞく)の魁(かしら)箕萱(きけん)が
下(した)に属(ぞく)しけれども。後(のち)にはともに一方(いつはう)によりすまふ。またこゝに加恩懸(かおんけん)の甄萱(しんけん)
といへる者(もの)も謀反(むほん)して武珍州(ふちんしう)【珎は俗字】といふ所(ところ)に兵(へい)を聚(あつ)めたり。弓裔(きうえい)甄萱(しんけん)とともに
王号(わうがう)を僭(せん)して国(くに)を盗(ぬす)むの意(こゝろ)ありしも。後(のち)高麗(かうらい)の大祖(たいそ)のために平(たいら)げらる。
既(すで)に真聖王(しんせいわう)が国(くに)亡(ほろび)んとして一人の英雄(えいゆう)出(い)づ。其名(そのな)を王建(わうけん)とぞいひける元(もと)
は松嶽郡(せうがくぐん)の人(ひと)にして父(ちゝ)をば王隆(わうりう)と号(がう)しける。王建(わうけん)が生(うま)れし時(とき)異僧(いそう)來(きた)つて
此子(このこ)の凡人(ぼんにん)ならざる事(こと)を。其父(そのちゝ)に教戒(けうかい)せしが異人(いじん)の云(いひ)しに違(たが)はず。初生(しよせい)の
ときよりさま〴〵の奇端(きずゐ)をば示(しめ)すのみならず。幼(いとけな)きより聡明世(そうめいよ)に聞(きこ)えその