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殿(てん)に入(いり)給ふ。新造(しんざう)といへどもおのづからなる海山(うみやま)の景(けい)を取用(とりもち)ひ。磯辺(いそべ)の松(まつ)岩(いわ)
根(ね)の小篠(おさゝ)此(この)山里(やまざと)に遷(うつ)し来(きた)つて苔(こけ)むせる。谷(たに)かげの茶店(さでん)までわざとならぬ
風興(ふうきやう)に一会(いつくわい)を促(うなが)せり。軍(いくさ)の労(らう)をなぐさめ給はん便(たよ)りまでとゝのへたる。京洛(けいらく)の城(しろ)
とてもさらにかはらぬ趣(おもむ)きを去(さんぬ)る頃(ころ)。清正(きよまさ)が申上(まうしあげ)しにかわらぬとて秀吉公(ひでよしこう)
の御気色(おんけしき)。殊(こと)によろしく見(み)えけれは上下(じやうげ)これに安堵(あんど)をなす。かくて秀吉(ひでよし)
公(こう)此所(こゝ)に御座(ござ)あつて。朝鮮(てうせん)日本(につほん)両海辺(りやうかいへん)に屯(あつま)りたりし軍兵(ぐんひやう)すべて四十八万
人の米穀(べいこく)。并(ならび)に舟子(ふなこ)馬(うま)の草蒭(くさわら)まで一ッも遅々(ちゝ)のなきやうに其(その)たより宜(よろ)しく。
弁(べん)じさせ給へるは凡(およそ)日本(につほん)始(はじま)りて。如此(かくのごとく)の英雄(えいゆう)の出(いで)んこと末代(まつだい)はいざしらず。上(じやう)
古(こ)より例(ため)しすくなき事(こと)どもにおどろかさりし人(ひと)はなし。
渡海(とかい)の諸将(しよしやう)軍評定(いくさひやうぢやう)《割書:并(ならひに)》逆風(きやくふう)に逢(あ)ふ事(こと)