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時(とき)。また逆風(きやくふう)に吹(ふき)もどされて是非(ぜひ)なく風本(かさもと)にかへりけり。行長(ゆきなが)が一手(ひとて)のみ難(なん)なく
豊島(とよしま)に着岸(ちやくがん)し。それより心(こゝろ)は鶏林(けいりん)の地(ち)に馳(はす)るといへども狂風(きやうふう)みだりに強(つよ)くして。
船(ふね)漕出(こきいだ)さんやうもなし。行長(ゆきなが)は清正(きよまさ)等(ら)がすでに至(いた)るべきことを慮(おもんはか)りければ
大風(たいふう)を凌(しの)ひて進(すゝ)み行(ゆく)。釜山浦(ふさんかい)へと漕(こぎ)よせける。斯(かく)て諸手(もろて)の面々(めん〳〵)加藤清正(かとうきよまさ)
を始(はじめ)として。黒田(くろだ)鍋島(なべしま)小早川(こばやかは)島津(しまづ)福島(ふくしま)其外(そのほか)の諸将(しよしやう)まで。段々(たん〳〵)の兵船(ひようせん)共(ども)
或(あるひ)は熊河(こもがい)に押入(おしいり)或(あるひ)は釜山浦(ふさんかい)につかんとて。海上一面(かいしやういちめん)に押渡(おしわた)りけり。こゝに藤堂佐(とう〴〵さ)
渡守高虎(とのかみたかとら)は意(こゝろ)はやき者(もの)なりければ。他人(たにん)に先(さき)をせられては口惜(くちおし)き次第(しだい)なる
べしとて唐島(からしま)を心(こゝろ)かけ。夜半(やはん)ばかりにひそかに船(ふね)を乗出(のりいだ)し手勢(てぜい)わづかに五百
人を引分(ひきわけ)たり。すでに唐島表(からしまおもて)に着(つき)ければ朝鮮(てうせん)より指置(さしおき)たる。番船(ばんせん)の揃(そろ)へたる
を目(め)がけ一柏子(ひとひやうし)に船(ふね)漕(こぎ)よせひた〳〵と乗(のり)うつる。藤堂(とう〴〵)が運(うん)や強(つよ)かりけん爰元(こゝもと)