← 前のページ
ページ 246 / 451
次のページ →
翻刻
しくぞ見へたりける。行長(ゆきなが)はしは皮(かは)の鎧(よろひ)に銀(きん)にて鴛(おし)の裾金物(すそかなもの)を打(うつ)たるを。草槢(くさずり)
ながにゆりさげ鍬(くわ)がた打(うつ)たる唐(から)の頭(かしら)の兜(かぶと)を着(ちやく)し。銀(ぎん)の天月(てんけつ)出(いだ)したる母衣(ほろ)
をかけ将軍(しやうぐん)より賜(たま)はりたる。大黒(おほくろ)の馬(うま)に白泡(しらあは)かませ陣頭(ぢんとう)に進(すゝ)み勝負(しやうぶ)いかにと
見(み)て居(ゐ)たりしが。きつと心(こゝろ)づき伊賀(いが)のしのびの百人の内(うち)。二十人 計(ばかり)を呼出(よひいだ)し搦手(からめて)
へ廻(まは)し。風上(かざかみ)より火(ひ)をかけたりければ其煙(そのけふり)城中(しやうちう)に乱(みだ)れ入(いり)。ほのふを吹(ふき)かけたれば城(じやう)
兵(へい)何(なに)かは以(もつ)てたまるべき色(いろ)めき立(たつ)て騒動(そうどう)す行長(ゆきなが)は自(みづか)ら馬印(うましるし)を振(ふつ)て。すはや此図(このづ)をぬか
すな進(すゝ)め〳〵と下知(げぢ)をなし。総軍(そうぐん)一度(いちど)に大浪(おほなみ)のげきする如(ごと)く攻(せめ)かゝる。成義門(せいぎもん)柳延(りうえん)
等(ら)心(こゝろ)は剛(がう)にはやれども崩(くづ)れ立(たつ)たる味方(みかた)なれば。今(いま)は戦(たゝか)ふ力(ちから)なく成義門(せいぎもん)は自(みづか)ら剣(けん)【釼は辞書に無し】を
廻(まは)し。我(われ)いやしく国(くに)の臣(しん)として任(にん)をあづかるは只今(たゞいま)のためなりとて。四 方(はう)八 面(めん)に駈(かけ)
めぐり死(しに)ものぐるひに戦(たゝか)ひけるところに。小西(こにし)が兵士(へいし)竹内喜兵衛(たけうちきへゑ)。馳(はせ)かゝり。つゐに切