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火飛脚(ひびきやく)かゞりと云(いふ)ことなり。すでに主計頭(かずへのかみ)が人 数(ず)の先手(さきて)より龍津(りうしん)の南(みなみ)
岸(きし)に着(つき)たりけり。此(この)要害(やうがい)を固(かた)めたる朝鮮(てうせん)の大 将(しやう)は江原道(こうけんたい)の助防将(ぢよばうしやう)元豪(けんがう)
といふ者(もの)なるが。纔(わづか)に数百(すひやく)の人数(にんず)をもつて此所(このところ)を守(まも)りけるまことに敵(てき)の大 軍(ぐん)
には対(たい)すべき人数(にんず)にはあらねども。偏(ひとへ)に龍津(りうしん)の要害(やうがい)を頼(たの)むばかりの
意(こゝろ)なり。元豪(げんがう)こゝに謀(はかりこと)を設(まう)け津口(しんこう)の舟(ふね)とも。一 隻(そう)ものこらず近里(きんり)水村(すいそん)
を借集(かりあつ)め。凡(すべ)て舟(ふね)を北岸(ほくがん)にあつめたるは。敵(てき)にたやすく津(しん)を渡(わたら)せま
じきの謀計(ぼうけい)なりまた多(おほ)く人 数(ず)の備(そな)ひたる体(てい)を見せ。敵(てき)の気(き)を奪(うばわ)
んとや思(おも)ひけん。藁(わら)にて多(おほ)く人 形(ぎやう)を作(つく)らせ甲冑(かつちう)を着(き)せ。弓(ゆみ)をもたせ矢(や)を
はげさせ。或は多(おほ)く旌旗(せいき)を指(さ)し上(あ)げ。木の梢(こすへ)尾梁(おくりやう)の陰(かけ)より所々(ところ〳〵)に是(これ)
をひるがへすは。まことに多勢(たせい)の有(あり)さまなり。主計頭(かずへのかみ)が先(さき)手の兵(へい)此(この)有様(ありさま)