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加藤清正(かとうきよまさ)龍津(りうしん)を越(こゆ)る事(こと)
すでに清正(きよまさ)の旗(はた)本 程(ほど)なくたう着(ちやく)すれば。清正(きよまさ)近習(きんしゆ)手廻(てまわ)りの人 数(ず)少々(しよふ〳〵)
召(めし)ぐし自(みづか)ら物見(ものみ)に出(いで)られ川の体(てい)を臨(のぞま)るゝに夥(おひたゞ)しき有さまや其 面(おもて)
凡(およそ)十四五町にあまりて。川 幅(はゞ)広(ひろ)きが碧流白浪(へきりうはくらう)を漲(みなぎ)らし湍(せ)の音(おと)の高(たか)き
ことどう〳〵聒々(くわつ〳〵)と鳴(な)り。人(ひと)の耳(みゝ)を驚(おどろか)す底(そこ)深(ふか)ふして石(いし)を泳(たゞよは)すは
たとへ舟(ふね)ありとも渡(わたり)やすからず北(きた)の岸(きし)には数(す)千 艘(そう)の舟(ふね)とも大小(だいしよふ)ひつしと
ならべ纜(つない)で。川端(かはばた)に臨(のぞ)んで敵渡(てきわた)らば防(ふせ)ぎ矢(や)射(いる)べき料(れう)と見へ。其(その)かず
しらぬ軍兵(ぐんぴやう)ども冑(かぶと)の星(ほし)をかゞやかし。弓(ゆみ)に矢(や)をさし加(くは)へて扣(ひか)へたりその間(あひだ)
に旌(せ)いきはまた白雲(はくうん)と色(いろ)を競(あらそ)ひ。川 風(かせ)に翩翻(へんほん)したるはまことに王城(わうしやう)の
堅固(かため)一防(ひとふせ)ぎなすべき処(ところ)とぞ見(み)えたりける。清正(きよまさ)はじめ此道(このみち)に向(むか)へること