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檄(げき)を飛(とば)せ元豪(げんがう)を促(うなが)し。すでに王城(わうじやう)も虚城(くうじやう)となるとても叶(かな)ふべからざるの
防(ふせ)ぎなり。早(はや)く本道(ほんだう)にかへるべしと云(いひ)たるにぞ元豪(けんごう)も。その夜(よ)ひそかに河(か)
辺(へん)を去(さ)つて本道(ほんだう)にかへりける。偖(さて)も加藤清正(かとうきよまさ)はよしなきところに押(おし)とゞめ
られ。いたつらに数日(すじつ)をおくり其意(そのこゝろ)の急速(きふそく)なる憤怒(ふんど)。しきりに止(や)むべから
ず終宵(よもすから)【𫕟は誤】是(これ)をおもひなやむが故(ゆゑ)に。潛(ひそか)に河上(かじやう)の体(てい)をうかゞふに炬火(かゝりび)の光(ひか)り
立消(たちきえ)て。深行(ふけゆく)まゝに影(かげ)黒(くろ)く夜(よ)はほの〳〵と明(あけ)にけり。清正(きよまさ)これを遥(はるか)に見(み)如何(いか)
さまにも敵陣(てきぢん)に変(へん)ありて。守(まも)りを引払(ひきはら)ひたるにやあるらんと意(こゝろ)づき。再(ふたゝ)
び近従(きんじゆ)の士(し)を召具(めしぐ)し。水辺(すゐへん)に立出(たちいで)北岸(ほくがん)のやうを察(さつ)するに。河霧(かはぎり)の晴間(はれま)
を見(み)れば守(まも)りの兵陣(へいぢん)をつらね。旌旗(せいき)の影(かげ)さながらもとの如(こと)くなるに。不思議(ふしぎ)
や河瀬(かはせ)に集(あつま)る鴨鳬(あふふ)の類(るい)。南岸(なんがん)に向(むか)ふは一ツもなく。さしもに多(おほ)き守兵(しゆへい)共(ども)