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城(じやう)の一 揆(き)ども大(おほい)によろこび。重(かさ)ねて書翰(しよかん)を送(おく)りて云(いふ)清正(きよまさ)直(すぐ)に城(しろ)に入(いり)て。王子(わうじ)
を受取(うけとり)給へ最(もつと)も大勢(おほぜい)は叶(かな)ふべからず。上下(じやうげ)十 余人(よにん)をもつて涯(かぎ)りとすべしと云(いひ)
おくる。清正(きよまさ)聞(きい)て其日(そのひ)の中(うち)に軍中(ぐんちう)に触(ふれ)させ。日頃(ひごろ)武士(ぶし)の馬(うま)を嗜(たしな)むはかゝる事(こと)
の為(ため)なるぞ。行列備(きやうれつそなひ)にも及(およ)ばず一 騎(き)がけに馳行(はせゆく)べし。早(はや)く駆(かけ)たらん者(もの)が手(て)
柄(から)なるべしと云捨(いひすて)其身(そのみ)は秘蔵(ひさう)のはね月毛(つきけ)の馬(うま)に打乗(うちのり)真先(まつさき)に馳出(はせいだ)せは。誰(たれ)
か一人 留(とゞま)るべき我(われ)劣(おと)らじと馬(うま)を飛(とば)せて。会寧府中(ほねいふちう)に入(いり)にける。其夜(そのよ)は城外(じやうぐわい)
にて夜(よ)を明(あか)し。翌朝(よくてう)卯(う)の刻(こく)ばかりに城中(しやうちう)へ入(い)らんとす。加藤家(かとうけ)の老臣(らうしん)諌(いさ)め
て云(いふ)案内(あんない)しらぬ異国(ゐこく)の城内(じやうない)へ。小勢(こぜい)にて御《割書:ン》入(いり)あらんこと其(その)謀計(ぼうけい)の遠慮(えんりよ)な
きと申さんか。万一 敵大将軍(てきたいしやうぐん)をあざむき。王子(わうじ)を餌(ゑば)にして擒(とりこ)にせん工(たく)みかも知(し)
るべからず。敵兵(てきへい)御《割書:ン》大将(たいしやう)を見(み)しらざるこそ幸(さいわ)ひ。誰(たれ)にても御名代(ごみやうだい)に清正(きよまさ)なり