← 前のページ
ページ 319 / 451
次のページ →
翻刻
いへる者(もの)と去(さんぬ)る夜(よ)のことなるに清正(きよまさ)の前(まへ)におゐて。女真国(おらんかい)へ攻寄(せめよす)る前陣(せんぢん)の
ことを云(いひ)つのり。互(たがひ)に過言(くわごん)におよんで既(すで)に撃果(うちはた)すべき気色(けしき)なりしを。清正(きよまさ)
中(なか)に入(いり)互(たがい)に無異(ふゐ)をつくろはるゝといへども心(こゝろ)に遺趣(いしゆ)は残(のこ)りけるこゝに意(い)
丹城(たんじやう)といへるを攻(せめ)ける時(とき)義太夫(ぎだいふ)は腰兵粮(こしひやうらう)の類(るい)までしづかにこれを調(とゝの)ひ。未(いま)だ夜(よ)
の明(あけ)ざるに。諸隊(しよたい)に先立(さきだち)て唯(たゞ)一騎(いつき)馬(うま)を追手(おほて)の門前(もんぜん)に乗(の)りかけしところへ。孫兵(まこべ)
衛(ゑ)もつゞひて馬(うま)を馳来(はせきた)る。森本(もりもと)は貴田(きだ)に向(むか)つて只今(たゞいま)まで遅参(ちさん)におよぶ者(もの)は
孫兵衛(まごべゑ)にはあらざるや。貴田(きだ)聞(きい)ていかにも我(われ)は孫兵衛(まごべゑ)なり。互(たがひ)にこゝにて高(かう)
名(みやう)せんと云棄(いひすて)て。追手(おほて)の門(もん)へかけ入(い)らんとせしところへ。城内(じやうない)より二人の男(おとこ)駈(かけ)
出(いで)て。一人は義太夫(ぎだいふ)に渡(わた)り合(あひ)しがやにはに二人 引組(ひきくみ)けるが。義太夫(ぎだいふ)力(ちから)や勝(まさ)り
けん彼男(かのおとこ)を組仆(くみたふ)し。首(くび)とつて立(たち)あがる。孫兵衛(まごべゑ)は今(いま)一人の敵(てき)と戦(たゝか)ひけるが