← 前のページ
ページ 335 / 451
次のページ →
翻刻
裳(しやう)文字(もんじ)のみ事(こと)として武備(ぶび)へ油断(ゆだん)のところと聞(きく)。諸将(しよしやう)の勇猛(ゆうまう)なるを以(もつ)て彼国(かのくに)に攻(せめ)
入(い)らんこと。何(なん)の遠慮(ゑんりよ)も無(な)き事(こと)なれば我意(わがこゝろ)安堵(あんど)せしむる処(ところ)なるが。委細(いさゐ)は
石田(いしだ)等(ら)其旨(そのむね)を伝(つた)ふべき由(よし)をぞ書(しる)されける。此時(このとき)秀吉公(ひでよしこう)は名護屋(なごや)海辺(かいへん)の風(ふう)
興(けう)面白(おもしろ)き地(ち)を撰(えら)んで。広(ひろ)さ六七 間(けん)長(なが)さ数(す)百 間(けん)におよびたるを造作(ざうさく)し。畳(たゝみ)
の座(ざ)板敷(いたしき)一所々々(いつしよ〳〵)を十 間(けん)に涯(かぎ)りて。厨(くり)や竈爐(かまど)の手遣(てづかひ)よく器皿(きへい)薪炭(しんたん)精米(しらけごめ)
塩梅(しをうめ)の類(たぐ)ひまで。こと〳〵くこれを備(そな)ひ置(おゐ)てその後(のち)近郷(きんごう)の海濱(かいひん)より。漁夫(ぎよふ)蜑郎(あま)【延+女を一字と見るとそれは誤ヵ】
どもを招集(めしあつ)め。此澳(このおき)にし【「し」の横に句点あるは「て」の下の付間違いヵ】て大網(おほあみ)を引(ひか)せつゝ名護屋(なごや)に居住(きよぢゆう)の諸国(しよこく)の軍兵(ぐんひやう)共(ども)。
なが〳〵の在陣(ざいぢん)にてその気(き)の退屈(たいくつ)せんをなぐさめんとのことなりけり。かゝり
しかば其(その)触(ふれ)にしたがつて。相集(あひあつま)るところの漁猟(ぎよれう)の師(し)凡(すべ)て数(す)百人におよびけるが。
遥(はるか)に小船(こふね)どもを漕出(こぎいだ)し。大網(おほあみ)を遠(とほ)くより巻(ま)き寄(よせ)たり。さしもに広(ひろ)き蒼(さう)