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平生(へいせい)国(くに)の禄(ろく)を食(しよく)しながら。その政(まつりごと)をも正(たゞ)しうせず如此(かくのごとく)に国(くに)を誤(あやま)る。今(いま)また民(たみ)
を欺(あさむ)きてかたく此城(このしろ)を守(まも)らんとすと云(いひ)たるに。間(ま)もなく落行(おちゆか)んと欲(ほつ)するやと云(い)ひ
詈(のゝし)り怒(いか)り。兵杖(へいぢやう)をもつて人(ひと)に遇(あは)ば人(ひと)をたゝき貴人(きにん)高官(かうくわん)と見(み)るときは。なほ〳〵強(つよく)
くこれを打(うち)婦女(ふぢよ)幼稚(えうち)の輩(ともがら)まで。みな〳〵怒髪(いかるかみ)さか立(たち)號(さけ)びけるは。かく城(しろ)を棄(すて)んとせ
んに。何故(なにゆゑ)我等(われら)を欺(あざむ)き呼(よ)んで城(しろ)に入(いれ)賊(ぞく)の手(て)に殺(ころ)さしめんとはかれるやと。声々(こゑ〳〵)に呼(よば)はり
ける故(ゆゑ)諸大臣(しよだいじん)みな〳〵色(いろ)を失(うしな)ひ。これを禁(きん)ずれども更(さら)に止(やむ)ことなし柳成龍(りうせいりやう)おもふ
やう此(この)有(あり)さまにては乱民(らんみん)どもの庭中(ていちう)まで押入(おしい)らんかと心(こゝろ)をいため門外(もんくわい)の階(きさばし)の上(うゑ)に
立出(たちいて)て。その中(なか)をつく〳〵見(み)れば年(とし)長(ちやう)じて髯(ひけ)多(おほ)き男(おとこ)のあり如何(いか)にも此(この)乱民(らんみん)どもの
頭(かしら)と見(み)へける故(ゆゑ)成龍(せいりやう)乃(すなは)ち手(て)をあげて是(これ)を招(まね)けば其男(そのおとこ)乃(すなは)ち進(すゝ)み来(きた)るこれは此(この)
ところの下役人(したやくにん)と聞(きこ)へける成龍(せいりやう)此者(このもの)に諭(さと)して云(いふ)汝等(なんちら)如此(かくのことく)に憤(いきどほ)りを発(はつ)するは実(まこと)に