← 前のページ
ページ 356 / 451
次のページ →
翻刻
忠義(ちうぎ)の志(こゝろざし)と云(いゝ)つべし感心(かんしん)なきにあらず。しかるに是(これ)によつてかへつて乱(らん)をなし宮内(きうない)をお
どろかし擾(みだ)すに至(いた)れる条(でう)。甚(はなは)だ以(もつ)て相違(あひたがひ)駭入(おどろきいつ)たることどもなり。主上(しゆじやう)すでに汝等(なんぢら)が為(ため)
に籠城(らうじやう)のことを以(もつ)て許(ゆる)され給ふ上(うへ)は。何(なん)の違(たが)ひかあらん早(はや)く此(この)趣(おもむ)きを以(もつ)て。衆人(しゆうじん)に
諭(さと)し此(この)譟動(さうどう)をしづむべし。若(もし)また退(しりそ)かずんば汝(なんぢ)か輩(どもから)重罪(ぢゆうざい)なれば赦(ゆる)すべからずと。
云(い)ひければ彼男(かのおとこ)持(もつ)たる矛(ほこ)を打捨(うちすて)て手(て)をおさめつゝしんで云(いふ)。小民(しやうみん)等(ら)城(しろ)を棄(すつ)るの説(せつ)を
聞(きい)てその憤(いきどほ)りしのびかたく。妄(みだ)りに動(うご)くこと如此(かくのごとく)なり今(いま)大臣(だいじん)の言(ことは)を承(うけ給は)る。小人(しやうじん)まことに
理(り)をしらぬ者(もの)たりと申(まう)せども。心中(しんちう)安堵(あんと)仕(つかまつ)りたりと大(おほい)に悦(よろこ)べる顔色(かんしよく)して。衆人(しゆうじん)を引(ひい)
て退(しりぞ)きたり。されども猶(なほ)朝臣(てうしん)は日本勢(につほんぜい)の来(きた)らんことをおそれ。出(いで)て走(はし)らんといふより
外(ほか)の量見(りやうけん)もなかりけり。中(なか)にも寅城府院君(いんじやうふゐんくん)鄭徹(ていてつ)しきりに城(しろ)を棄(すて)て。他(た)へ遷幸(せんこう)あ
らんことを相議(あひはか)る。柳成龍(りうせいりやう)さま〳〵理(り)をつくして是(これ)を止(とゞ)め。しばし籠城(らうしやう)する内(うち)には