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まけ王子(わうし)を始(はじ)め后宮(こうくう)をやみ〳〵と。敵(てき)の手へ渡(わた)し我身(わがみ)までかく虜(とりこ)となりて。
再(ふたゝ)び龍顔(りうがん)を拝(はい)し奉ること生前(しやうぜん)の恥(はぢ)この上(うへ)なし。倭将(わしやう)少(すこ)しおそく寄(よ)せ来(きた)ら
ば触(ふれ)つかはせし。人数(にんず)を集(あつ)めて戦(たゝか)ふ程(ほど)ならばかくもろくは負(まけ)まじきに。行長(ゆきなが)清(きよ)
正(まさ)すき間(ま)なく取(とり)かけし故(ゆゑ)。かく敗軍(はいぐん)におよびしこと生々世々(しやう〳〵よゝ)の意恨(いこん)たり。せめて
討死(うちじに)なさば今 此(この)恥辱(ちじよく)はあるまじきに口おしき次第(しだい)なりと。声(こゑ)をあげて歎(なげ)
きかなしみければ。両王子(りやうわうじ)も聞召(きこめし)御 ̄ン衣(ころも)の袂(たもと)を御 ̄ン顔(かを)にあてゝ。御なみだにむせび玉
ふ。朝鮮(てうせん)の大臣(だいじん)はいふにおよばず清正(きよまさ)をはじめ。百万 騎(ぎ)の敵(てき)をもものともせぬ加(か)
藤家(とうけ)の勇士(ゆうし)どもゝ。伯寧(はくねい)が云(いふ)ところ理(ことは)りなりとて涙(なみだ)をながさぬは無(な[か])りける。かゝ
るあはれなる中(なか)に。阿波伊兵衛(あはいへゑ)。九鬼四郎兵衛(くきしろべゑ)。二人は少(すこ)しも涙(なみだ)を浮(うか)めもせず。
常(つね)の如(ごと)くにて有(あり)しかば人々(ひと〳〵)是(これ)を見て。あはれをしらぬ荒夷(あらゑびす)かなと申あへりける