翻刻
【右丁】
辰巳之方江流レ行申寒風は身ヲ透し
一同凍居ずくまり唯神仏ヲ祈念仕候之み
ニ而傳蔵壱人楫ヲ取罷在朝ニ相成候処舟に
いたみハ無之候得共櫓は流て壱挺もなくなり
風者猶々甚しく大小の帆柱ヲ明床へ横に詰
付覆らぬ用心仕候風ニ任せ流行候処ニ地方の
山は見へ候得共乗寄候儀難斗遂に山も見
失ひ九日目ハ用意米佛底仕候ニ付釣溜候魚を
たへ飢えヲ凌き罷在十日ニ者雨降り出し寒風強
【左丁】
苫を焚少々あたゝまり纔ニ残り候𩵋ヲ分
給申候ケ様飢凍なから日暮夜も明ケ十三日
之晩景ニ東南と相覚候方へ山ヲ見付島も
かすかに見へ候間傳蔵申候者此トヲクロという言
島の居候ヲ見れは必嶋なかるへし何卒流付
候様いたし給れと神佛祈念シ其日の夕方ニとふ
〳〵流付候処壱ツの嶋にて御座候されども風波
はげしく飢も疲も甚し先碇ヲ下し其儘
漂ひ罷在候処磯𩵋沢山見候間釣垂候處多く