翻刻
【右丁】
天明(てんめい)二 壬寅(みつのえとら)七月六日 信州(しんしう)浅間山(あさまやま)焼(やけ)いでゝ猛火(もうくわ)
天(てん)を焼(やき)日影(ひかけ)を覆(おゝ)ひ隣国(りんこく)震動(しんとう)して昼夜(しんや)【ママ】の
分(わか)ちなく民屋(みんおく)を打破(うちやふる)こと幾村(いくそん)といふ事(こと)を知(しら)ず
東国(とうこく)奥羽(おほう)迄(まて)灰(はい)を降(ふら)し其秋(そのあき)東国(とうこく)餓饉(ききん)をな
す事(こと)あり是(これ)天地(てんち)の気脉(きみやく)滞(とゝこほ)りての病(やまひ)也(なり)人間(にんけん)
もまた脩養(しゆやう)に愚(おろ)かにして飲食(いんしよく)私慾(しよく)に過不(くわふ)
及(きう)有れは疾病(しつへい)を生(しやうづ)ること的然(てきぜん)也(なり)慎(つゝし)むへきの至(いたり)
なり抑(そも〳〵)養生(やうしやう)と倹約(けんやく)とは其(その)思立(おもひたつ)日より利益(りゑき)
有(あり)て病身(びやうしん)は無病(むびやう)となり貧者(ひんしや)は富(とみ)月(つき)の初(はし)め
より倹約(けんやく)を行へば晦(つこも)日には其印(そのしるし)あり又前(またまへ)にも
【左丁】
いふごとく冬月(とうけつ)の氷(こほり)も室(むろ)に貯置(たくはへおけ)ば夏月(かげつ)の炎(えん)
天(てん)にも持(たも)ち牽牛花(あさかほはな)のもろきも能(よく)日(ひ)を厭(いと)へば夕(ゆふ)
くれ迄(まて)も持(たも)つなり是(これ)現然(けんぜん)の事(こと)也(なり)人(ひと)もまたかくのこと
く厭(いと)ふへき時(とき)はいとひ避(さく)へきことをさけ兎角(とかく)天地(てんち)の
道(みち)に逆(さか)はず己(おのれ)が身分(みふん)に過(すき)たる業(わざ)を為(なさ)ず好事(すくこと)
も嫌(きらひ)なるも中(ちう)の所(ところ)を行(おこな)ひ朝(あさ)は早(はや)く起(おき)て家内(かない)を
掃除(さうじ)し神仏(しんぶつ)を拝(はい)し家業(かぎやう)を厲(はけ)み家内(かない)親(しん)
族(ぞく)睦敷(むつましく)友明(ほうゆう)の交(ましは)りを篤(あつ)くし其(その)余力(よりく)に芸(げい)
能(のう)を心懸(こゝろかく)れば自然(しぜん)と養生(やうしやう)に叶(かな)ひ彭祖(はうそ)老(らう)
子(し)の長寿(ちやうじゆ)もとりも直(なほさ)ず己(おのれ)に得(え)て長生不老(ちやうせいふらう)