翻刻
【右丁】
《割書:返事すへき事あり 近く参れとめす二人おそろしく 御側に参り|御旨承て帰 このゝち 伊達か家に郎等たゝうつ手を待て死ねやらて》
《割書:大にうこきたり洛中の貴賤驚き さはく事おひたゝし此よし大坂|に聞えしかは太閤事のやうをも見よとて政宗か在国の家人等急き》
《割書:召へきよし催促の御使を給る政宗か家子郎等をはしめて雑人はらに|至るまて或は弓をしはり矢かきおひ 鉄砲に火縄さしはさみ鎗は長刀》
《割書:杖につき大庭にみち〳〵たり政宗御使ときゝて大わらはなるまゝ|にて刀をも帯せすつはもの共おしわけ〳〵門ひらかせ内に請し》
《割書:いれ仰承て後 政宗此度 仰を承りしよりこのかた 家子郎等|僉議していはくなん条先祖累代の地をはなれてしらぬ国にさま》
《割書:よひ天下に恥をさらすへき 政宗は尋常に腹を切をのれらは一々に|討手の御使をまちて切死つかまつるへしと 議定す政宗是を制して》
《割書:ことはをつくすといへともかゝる大臆病の主人とは 日比も思はさりし|をと一向に下知を用ひすさしも年ころは政宗か申さんほとの事》
《割書:いかなるひかことならんにもそむく事なかりしやつはらか今 政宗か|殿下の御とかめかうふりて候へはをのか主をも あるものとも 存せす》
《割書:かゝる不思議をふるまふ事 又候此よしさためて 御聴にも達せんか|まつたく政宗か所存にあらすもし御たつねあらんには 能に》
《割書:申ひらきて給るへし 又在国の家人 上洛の事 催促すてに畢ぬ|今に至て一往の返事をも まいらせぬはかれか又いかなる奇怪をや》
【左丁】
《割書:仕り出すらんと 安き心も 候はすとて 御使を帰しぬ徳川殿も洛中|の騒動を聞し召て大坂に参り給ひ都に候政宗か家人等誅せられん》
《割書:事何ほとの事か候へきさりなから在国の家人等累代の主人失はれぬと|聞は理非わきまへぬあらゑひすとも いかなる仰候とも よも御下知に》
《割書:したかふまし朝鮮の事 いまたさたまらす 本朝のうち又たちまちに|兵革おこらん事いやしきものゝ 申すなる大事のまへの 御事なり》
《割書:又罪のうたかはしきをはかろんするとも 承る彼累代の所領うはゝ|れんもかつは 不便の至り也 しかるへくはまつ此度も寛容の御》
《割書:沙汰もや 侍らんと仰られしうちに落書の事 おこりてつゐに|つゝかも なかりしと なり成実か記に此事は みへねとも 大略は》
《割書:似たる事ありその物かたりのやうもまさし|けれはこゝに注して一説にそなふなり》かくて太閤薨し
給て後慶長五年の秋中納言景勝追討の事 起る政宗
その手合の為に徳川殿にさきたつて本国に 馳帰軍勢
催してまつ白石の城を攻落し 梁川の城を攻んとす
かゝる所に徳川殿の御使来て 石田等退治の為まつ上方に