翻刻
【右丁】
名をあらはす《割書:初関白殿奥州に御下向ありし時陸奥会津の地|たまふへしと仰下さる忠興承り御政務の為に》
《割書:此所をまもられんに辞する事あるへからすもし年来の功を賞せ|られんか為に給らはたとへ小国なり共西国をそ給ふへけれと申けれは》
《割書:さてや|みぬ》太閤薨したまひ 彼家の奉行等 加賀大納言利家
をすゝめて徳川殿うしなひまいらせんとはかる忠興嫡子
與一郎忠隆は大納言の娘を妻としけれはゆかりに付て
したしかりし程に忠興大納言をかたく諫てけれは
利家と 奉行等まつ 内府うしなふて其後我をも
かたふけうとする謀也 けりとさとつて徳川殿の方人
せし上は 事つゐに たいらきぬ 此賞として忠興に
豊後国 杵築の城をくはへ賜ふ《割書:五万|石》是しかしなから徳川殿の
【左丁】
執し申されし故也けり《割書:或人のいはく忠興かかく大納言を謀し|事ひとへに 利家か 家のためのみに》
《割書:あらす且は 徳川殿の 御為とそ聞へける その故は去《割書:ル》文禄年中|関白秀次うしなはれ 給ひし時 忠興も 同しく罪かうふるへき》
《割書:事出来たり たとへは 秀次当時の大名の財つき用たらさる輩に|ひそかに黄金かしたまふ事あり かつは人の心をとらんか為かつは》
《割書:財を利せんか為也けり忠興侍従も黄金弐百枚を借る関白の御事|ありて後彼家の出納の人催促していそき彼黄金つくのひ給ひなは》
《割書:券契をやふりすて侍るへしさなからんには彼券契を太閤家の|奉行に参らせて 解由を給ひ申へきにて候といひしに忠興の》
《割書:力いかにもかなふへからす此事太閤にもれきこへは彼縁座にな|されて罪かうふらん事たちところにありめやせまし角やあら》
《割書:ましとあんしわつらふに家のをとななりける松井佐渡申すは|某年頃徳川殿の御内なる本多佐渡守正信としたしく相かたらふて》
《割書:さふらふかれにつきて徳川殿を頼み参らせはやと存す徳川殿は|さるたのもしき人にてしかも当時の大名也いかてこれほとの事にて》
《割書:人の家ほろひんとするをたすけ給はぬ事や候へきと申す忠興聞て|我日比内府にしたしくもなしかゝることたのむへき事便なしされと》
《割書:汝か正信としたしからん上はこゝろえに汝か心のやうにてはかろふべし|といふ松井本多につきてかくと申す徳川殿此由を聞し召れ御前の》