翻刻
【右丁】
《割書:人々をのけて松井をちかくめし事のよしかさねてたつねとはせたまひ|正信して 御傍の唐櫃を二ツひらかせ らるゝに 唐櫃一ツに黄金》
《割書:百枚つゝを入られたりその黄金の箱に題せし年月を見よと仰らる|正信是をかんかふるに廿一年の前いまた三河国に御座ありし時に》
《割書:候と申徳川殿松井にむかはせ 給ひおよそ 金銀はかならす出納の|司ある事にて もしや 人しれす 用んとするに 我心にまかせ》
《割書:かたしされは 此黄金をたくはふる事かゝる時を待事年既に久しかりき|今忠興朝臣か 為に我年来の本意を 達しけるこそうれしけれ》
《割書:とてみつから是を 松井にたふ 松井大に悦ひかゝるありかたき事|こそ候はね既に絶給んとせし家かくふたゝひつきて候事ひとへに》
《割書:君の御なさけによる所也細川家の候はんかきりは いかて此御恩|のほとわすれ侍るへきすみやかに本国に申下し黄金めしのほせて》
《割書:こと〳〵く償参らすへきにて候と申けれは 徳川殿いや〳〵此事|世にもれなんにはふかき両家の禍にこそあんなれそれ故にこそ》
《割書:かく人しれす用ふへき料のもの取出て参らすれ是つくなはんと|思ふ事ゆめ〳〵しかるへからすと仰らる 松井ことさらに 悦ひいそき》
《割書:罷帰りて此よし忠興に 申すへき にて候とて 御前を立て 出|にけり はるかに 程経て 後忠興その事となく 徳川殿に 参り》
《割書:御対面のつゐてに 正信を 呼出し 徳川殿に むかひ奉りて申けるは|去し比忠興か家人に仰下されし事つゝしみて 承りぬなに事の》
【左丁】
《割書:おはしますへきにはあらねとももし御家に事あらん時はかならす君か|ために忠興か 国をすてゝ此度の御なさけにこたへまいらすへき》
《割書:にて 候さりなから忠興つねに 御門下に伺候 つかまつりて候はん|には本意とけん事かなふへからすこれより後は又もとのことくうと〳〵》
《割書:しくこそ候へけれとて 御いとま申出ぬされは 日比は 徳川殿に親し|からぬ忠興かいさめし故に利家も ひたすらに わか家の事思ふなりと》
《割書:心得て忠興か申す|旨にしたかひしと也》慶長五年の秋奥の上杉謀反の聞え
あつて 徳川殿御発向の事 あり 忠興御跡をしたひて
はせ下る此隙をうかゝひて大坂の奉行等兵起して徳川殿
うしなひ参らせんとはかる内府にしたかつて奥に下りし
大名等か妻子一々にとつて質とせは彼等皆御方に
参らんすらんとてまつ最初に忠興か妻子城中に
迎んとす彼妻女なれとさるものゝ娘也又日比我夫の心