翻刻
【右丁】
事を悲しみ 城にこもれる 初相伝の書とも取あつめて
大内へ献るとて 古も今もかはらぬ世の中に心のたねを
のこすことの葉といふ一首の哥そへて参らせけるかくて
丹波但馬の軍勢雲霞の如くおし寄十重廿重に取尽て
火水になれと攻けれ共入道ちつともひるます防き戦ふ
かくては此城中〳〵一時に攻落さるへし共見へす烏丸
の右大弁勅使として大坂に行むかひ輝元三成等に
勅諚をつたへらる夫和歌は我邦の風として天地ひらけ
はしまりしより此かた百王の今に至る迄其道長く伝れり
然るに今いにしへの事をも哥の心をもしれる人たちまちに
【左丁】
失なん事朝家の歎き也いかにもして彼二位法印かつゝか
なからんやうをはかるへしと宣られたり輝元を始として
奉行等謹て承り急き早馬をたてゝよせ手の軍を
とゝむもとより入道は今を最期と思ひ切て戦ひし程に
よせ手たやすうひきて帰らん事かなふへからす此よし又
都に聞へしかは三条西大納言綸【倫は誤】命をふくみて丹後の国
に下向ありすみやかに勅に応して 城をさるへしとあり
けれは入道畏て普天の下卒土の浜王土王臣にあらすといふ
事なしと承るましてや此微賤の身かくまのあたり寵涯
の辱をかうふるをやさりなから入道年わかき時ならんには弓矢