翻刻
相客(あひきやく)の様子(やうす)を見受(みうけ)もし其(その)中(うち)に貴人(きにん)等あら
ば先(それ)を先(さき)へいれべし是等(これら)も前後(ぜんご)の争(あらそ)ひ
より物(もの)いひ出来(でき)るものなり旅(たび)は物事(ものごと)を扣勝(ひかいかち)
にすれば身の益(ゑき)有こと多し
一 殊(こと)の外(ほか)草臥(くたびれ)たる時(とき)至極(しごく)熱(あつき)居風呂(すへふろ)へ常(つね)よりも
久(ひさ)しく入ば草臥(くたびれ)直(なほ)る也 其(その)節(せつ)は顔(かほ)を度々(たび〳〵)洗(あら)ふ
べからず顔(かほ)を度々あらへば逆上(きやくじやう)するものなり
一 一通(ひととほり)の旅(たび)にて格別(かくべつ)に急(いそ)くことなくば夜道(よみち)決(けつ)
而(して)すべからず都而(すべて)旅(たひ)は九日路(こゝのかぢ)の所(ところ)ならば十日に
て行かんとすればいそきて夜道(よみち)等するよりも猶益
多きこと有ものなり又 河越(かわこし)等の都合あしき折は
其(その)斟酌(しんしやく)あるべし
一 道中(たうちう)は色慾(しきよく)を別而(べつして)慎(つゝし)むべし売女(はいしよ)は湿毒(しつどく)あ
り暑中(しよちう)は尤(もつとも)感(かん)【左ルビ「うつり」】じ易(やす)し怖(おそ)るべきことなり又
夜具(やく)にて湿(しつ)を受(うく)るものなれば香気(かうき)のものを
懐中(くわいちう)して其 湿邪(しつぢや)を避(さく)べし
一 夏(なつ)の道中(だうちう)は折々(をり〳〵)渇(かわき)て水を飲(のむ)とも清水(せいすい)をゑらみ
飲(のむ)べし古(ふるき)池(いけ)又は山水(やまみつ)にてもよく澄(すみ)流(なかれ)ざる
谷水(たにみつ)等 漫(みだり)湯に呑(のむ)べからず必(かなら)ず毒(どく)あるものなり尤
五苓散(ごれいさん)の類(るひ)を懐中(くわいちう)して水をのむべし