翻刻
一 泊々(とまり〳〵)にて刀(かたな)脇差(わきさし)は自分(じぶん)寐(ね)る床(とこ)の下(した) ̄え入おく
へし鎗(やり)長刀(なきなた)等も床(とこ)の奥(おく)へおくべし
一道中 火(ひ)の用心(ようじん)随分(ずいぶん)大切(たいせつ)に心付(こゝろつけ)村中(むらうち)は勿論(もちろん)譬(たとひ)
野中(のなか)にても煙草(たばこ)の吹(ふき)から麁末(そまつ)に捨(すつ)べからず
休々(やすみ〳〵)又 乗合舟(のりあひふね)等たはこの火に衣類(いるひ)包物(つゝみもの)等 焼(やく)こと
あり念入(ねんいる)べきことなり
一 春(はる)の中(うち)処々(ところ〳〵)野山(のやま)を態々(わざ〳〵)焼(やく)ことあり此(この)野火(のひ)風(ふう)
烈(れづ)にはけしからず手広(てびろ)になるもの也 如(かくの)_レ此(ことき)ところを
通りかゝりたる折は道の前後(ぜんご)を考(かんがへ)べし本道(ほんだう)にて
も火にまかるゝことあり野火もあなとるべからず
一 道端(みちはた)の家 居(ゐ)又は畑(はた)の中などに梨(なし)柿(かき)柚(ゆつ)蜜柑(みかん)
都而(すべて)菓(くたもの)類見事に作り有もの戯(たわむ)れにも手出(てだ)
しせぬ事なり又 村(むら)中にて五穀(ごこく)は勿論(もちろん)場(には)
中に干置物(ほしおくもの)等 仮初(かりそめ)にも踏(ふむ)べからず他国(たこく)にて
物いひ等ありては是非(ぜひ)の論(ろん)立(たち)がたしと知へし
一山中或は野道(のみち)などにて若(わかき)女(おんな)草刈(くさかり)童(わらへ)又は女 連(つれ)
の物 参(まい)り等に行あひて一通りの問答(とひこたへ)は格別(かくべつ)
無用の咄(はなし)或は田舎詞(いなかことば)なと漫(みだ)りに笑(わらひ)なぶる
べからず聊(いさゝか)の事よりむつかし出来(てき)るものなり
勘弁(かんへん)あるべし