翻刻
一 間(あひ)の宿(しゆく)又は横筋(よこすじ)なとにてあしき旅宿(とまりや)へ泊り
あたるは心持悪敷ものなり然とも不自由(ふじゆう)を口(こう)
外(くわひ)に出さす却而(かへつて)やわらかに物いひ荷物(にもつ)戸(と)〆り
等用心する事 道中(だうちう)にての秘事(ひじ)なり
一 皆(みな)人(ひと)他国(たこく)へ出れば物いひ風 俗(ぞく)いろ〳〵に替(かわり)て
已(おのれ)が国言葉(くにことば)に違(たが)ふ故に聞馴(きゝなれ)見なれぬ中(うち)は
おかしと思ふなれど又 先(さき)の人も此方(このほう)をおかし
と思ふは必然(ひつぜん)なりしかるを心得ちかひして
他国(たこく)の風 俗(ぞく)ものいひ等笑なふること誤(あやまり)としるべ
し人の詞を笑(わらひ)嘲(あさけ)ること口論(こうろん)となるもの也
一 道(だう)中にて謡(うたひ)小(こ)うた浄瑠璃(じやうるり)等口すさみて
行(ゆく)を此方より附(つけ)うたふへからず是(これ)も口論(こうろん)の
端(はし)なりとしるべし
一道中にて立寄(たちより)見間敷(みましき)ものは喧嘩(けんくわ)口論(こうろん)博奕(ばくゑき)碁(ご)
将棊(しやうぎ)村踊(むらおとり)村角力(むらすまふ)変死人(へんしにん)殺生場(せつせうば)惣而(そうして)人立(ひとたち)多所
等見計ひあるべし
一 商(あきな)ひ筋(すし)ならて外用(ほかよう)又は湯治先(たうじさき)物参(ものまいり)或は河留(かわとめ)
等にて長 逗留(どうりう)する折(をり)塗炭(とたん)は勿論(もちろん)かけの碁将棊
決而(けつして)すべからず且(かつ)自分(じふん)の知たる商ひにても
手出(てたし)せぬことなり利慾(りよく)より事(こと)起(おこ)り災(わさは)ひを