翻刻
欙(かんじき)
是は鉄(てつ)にて鎹(かすかい)の如く作り
草鞋(わらじ)の下へはき雪の上
すべらぬ為のものなり
又 手軽(てかる)く作りて沓草(くつぞう)
履(り)等の下へはくなり
商人田舎の人是を
用ざるものなし
樏(かんじき)
蔓(つるもの)にて作(つく)り
わらじの下へ
はき雪の深
き処へふみ
込ぬ為なり
山樵(きこり)又は鷹(たか)
狩(かり)等の人多く
これをはく
草履下駄(ぞうりけた)
是は雪の氷りたる日に
坂の上又は橋の上なと
小児此下駄をはき
辷(すべ)り戯れ遊ふなり
もつとも寒気強き
日程よくすへるなり
一 ̄ト足に三四十間より
五六十間も走るなり
此下駄をつくる木も
雪車(そり)を作 ̄ル ヲノヲレ也
竹下駄(たけけた)
此竹下駄も草履
下駄の如く辷(すべ)る也
是は辷るに曲ること
なくまつすくに
はしるなり近年
多くこれを用ゆる
といふ是等旅具
にあらざれとも雪
国のみの物故出_レ之
是によつて沓草鞋(くつわらじ)の類(るい)も雪国(せつこく)にて用ゆる品
を其所にて調(とゝの)ふへし前かとより用意有
ても其土地によつて用立ぬものなり
寒国ナテツキの事
一奥州越後の中或は二三里或は五六里が間(あひだ)両山(りやうざん)
峨(がく)々たる山道(さんだう)処々にあり冬年大雪にして春
二月 彼岸(ひがん)比に至而(いたりて)両山の雪 春暖(しゆんだん)に乗して
土際(つちきわ)を離(はなれ)んとする比(ころ)東風(とうふう)或は雷鳴(らいめい)地震(じしん)材木(ざいもく)
等の響(ひゞき)によつて両岸の積雪(せきせつ)一時(いちじ)に其(その)山道(さんだう)へ
こけ落るを鄙語(ひご)にナテツキといふ其折節は件(くだん)