翻刻
けり水主之内度々日本へ通ふ者有りて日本
の言葉も遣ひ覚し者有りて物毎に分り安シ
此船に牛拾五疋豕羊鶏等も積置けり朝
夕伽羅を焚て船中薫て香バしく舟ハ昼
夜を分たず向ふ風にもよどみ無く走りけり
□の間と思しき所に指渡し壱尺計りの磁
石の針あり四十八方に筋を引き細かなる船
の乗様也夫より十三日走りて沓嶋と云ふ所
有り嶋の形り阿蘭陀か履く沓に似たり此
嶋近く舟寄れバ吸付て離れず迚三丁も遠
ざけて走りけり折しも跡の方より黒山の如く
なる船十文字の印を立てさもいさぎよき大船也
ゾランケンと云ふ国の舟にして阿蘭陀が舟ゟハ倍ニ
して人数も三百人計そ乗りしと言若し此
舟取かけ候へバ阿蘭陀が舟叶わざりしと大に
さわき出しけり兼て用意やしたりけん此
舟も十文字の同し印の立物を出し
けれバ同国の舟と見てソランケン目懸ざ