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といへども。其夢(そのゆめ)に見し山は何所(いづこ)なる事を記憶(おぼへ)ず。是(これ)に依(よつ)て思煩(おもひわづら)ひけるが。つく
〴〵思惟(しあん)【「しゐ」或は「しい」とあるところ】し。それ馬(むま)は霊獣(れいじう)にてよく路(みち)を知(しる)とかや。我(わが)騎(のる)ところの白馬(はくば)はよく我(わが)心(こゝろ)に
合(かなひ)し名馬(めいば)なり。渠(かれ)を追放(おひはな)して夢(ゆめ)に見し霊地(れいち)を尋(たづね)しめば。若(もし)くは彼地(かのち)を知事(しること)も
有(あら)んかとて。件(くだん)の白馬(はくば)を曳出(ひきいだ)し。鞍(くら)を置(おき)轡(くつわ)を噛(かま)せ。偖(さて)馬(むま)に向(むか)ひ古(いにしへ)の《振り仮名:[竹+宦]|くわん》仲(ちう)が馬(むま)
は雪中(せつちう)に路(みち)を知(しつ)て諸軍(しよぐん)を導(みちび)き帰(かへり)しとぞ。你(なんじ)も我(わが)夢(ゆめ)に見(み)し山中(さんちう)を尋(たづ)ねて
知(しら)しめよと言聞(いひきか)せ。一人の童子(どうじ)を馬(むま)に随(したが)はしめて追放(おいはな)しけるに。白馬(はくば)は京城(みやこ)の北(きた)へ
走(はし)り遙(はる)〱(〴〵)と川(かは)を渡(わた)り谷(たに)を過(すぎ)て一 座(ざ)の山に到(いた)り。叢(くさむら)の中(うち)に留(とゞま)りて数声(すせい)嘶(いなゝ)き
けるゆへ童子(どうじ)其地(そのち)に標(しるし)を立置(たておき)馬(むま)を曳(ひい)て立(たち)かへり。伊勢人(いせんど)に斯(かく)と告(つげ)ければ。大いに
怡(よろこ)び童子(どうじ)を引路(あない)として其地(そのち)へいたり四辺(あたり)を巡見(めぐりみる)に。恰(あたか)も夢(ゆめ)に見(み)たるところと些(すこし)も
違(たが)はず。伊勢人(いぜんど)白馬(はくば)の霊識(れいしき)を感(かん)じ。山中(さんちう)を徘徊(はいくわい)するに。草茅(くさはら)の中(なか)に於(おい)て毘沙(びしや)
門天(もんでん)の像(ぞう)を拾(ひろひ)得(え)たり。伊勢人(いせんど)奇特(きどく)の事に思(おも)ひ立帰(たちかへつ)て工匠(かうせう)に命(めい)じ彼地(かのち)に一